THANK YOU!!-9
拓斗は、瑞稀の両肩を強く掴んで身体を離した。
顔を俯かせ、肩を先ほどよりも震わせて、瑞稀の背中を壁に押し付けた。
背中の痛みと肩を強く掴まれていることに顔を歪ませた瑞稀は、拓斗の様子についていけず、ただ拓斗を見ることしか出来ない。
「何なんだよ!!いきなり消えやがって!!トランペットのプロになりたいことも、世界を目指したいことも、アメリカに行くことも全部聞いてなかった!!!何で勝手に居なくなったんだよ!!」
「・・・・そ、れは・・」
「お前が居なくなった次の年に紫波って奴から全部電話で聞いたけど!それでも納得出来なかった!今もしてない!する気もない!!」
「・・恵梨が・・話した・・?」
「そうだよ!!お前がアイツに話していたことも全部!!」
それで、さっきの電話での恵梨の一時の様子が変だったのか・・。
この状況を一瞬忘れ、小さい疑問が解決された。
明らかに、拓斗の出張を別の論点に持っていきそうだったが、拓斗が言葉を続けた。
「何でダメになるって考えた!!そんなのわかんねえだろ!!勝手に決めんな!!
俺はっ!!!」
拓斗はそこで言葉を切ると、掴んだままだった瑞稀の両肩を思い切り引き寄せ先程よりも強く抱き締めた。その力に、瑞稀が顔を歪める位。
「っつ・・!!」
「いくら離れてもお前を好きでいる自信あったんだ!!!」
「・・!!た、くと・・」
ずっと、拓斗の腕から逃れようと抵抗していた手が、止まった。
そこで瑞稀は、苦痛に歪ませていた顔を驚きの表情に変えた。
「お前は、俺を信じれなかったのか!!俺を・・!!お前に言った言葉も、全部!!」
「ち、ちがっ・・!私は・・!!」
「俺と、恋人でいようって思ってくれなかったのか!!!」
「っ!!!」
その悲痛な叫びに、瑞稀はやっと気づいた。
5年も、自分は最愛な人に幸せになってもらう所か、辛い想いをさせていたことに・・。
泣き腫らしたはずの目から、涙を流す瑞稀。
拓斗も・・泣いていた。
「ごめ・・ごめんなさっ・・」
「俺が・・どれだけ辛かったか・・!!」
「ごめんなさい・・!ごめんなさい・・!!」
抵抗を止めた手を、拓斗の背中に回してギュッと強く掴んだ。
それに反応するかのように拓斗も抱きしめる力を強くした。
自分の選択が、間違っていたことを気づかされた瑞稀は狂ったように涙を流しながら何度も“ごめんなさい”を繰り返した。
「ごめんなさい・・!!
「瑞稀の・・ばかやろっ・・!!」
瑞稀は涙を拭うこともしないまま、顔をあげた。
拓斗も、それに釣られて瑞稀の顔を見つめた。
そして、ずっと離れていた心と身体の時間を取り戻すかのように荒々しいキスを交わす。
前の瑞稀なら、抵抗したであろうキス。
でも、今はそれほどまでにお互いが恋しかった。愛しかった。
離れても、すぐにくっつき・・呼吸することもままならないまま。