己を縛るモノV-1
怒りに震える仙水の脳裏には・・・
彼の前世での出来事が走馬灯のように駆け巡っていた。
腹部から大量に血を流し、絶命間近のその最後のときまで力の限り世界を守ろうと立ちあがる葵の姿。世界のために・・・己の犠牲も厭わずに十字架を背負っている葵。
己の幸せなど願ったことのない彼女が・・・恵まれている?・・・苦労も知らない・・・・?
「苦労を知らないのは・・・お前たち人間のほうだ・・・何も考えず与えられる幸せが誰からのものかも知らずに過ごしているのだろう?」
口調が変わり、豹変してしまった仙水に曄子は恐怖さえ感じ、後ずさる。
「葵が命をかけて守っていなければ・・・この世界は遥か昔に息絶えている・・・恵まれているのはどちらだ?」
「・・・そ、それは・・・っ」
王の役目がそれほどまでとは思ってもいなかった曄子は戸惑ったように視線を彷徨わせた。
「・・・おい人間の女
そのくらいにしといたほうがいいぜ」
木の上から幼い少年の声がして、曄子が視線をあげる。昨日みた葵や仙水を迎えにきていた蒼牙の姿があった。
「ここには九条も来てるんだ。
今の言葉聞かれたらお前・・・殺されるぞ」
そう言う蒼牙の瞳にも怒りの炎が宿っていた。葵を侮辱されることは何よりも耐えがたく、蒼牙とて仙水と同じ気持ちなのだ。
「蒼牙、葵様を探しましょう」
蒼牙が現れて、わずかながらに冷静さを取り戻した仙水が曄子に目もくれず歩み出した。
「・・・・っ」
相手にされてないと身に染みてわかってしまった曄子の瞳には涙が溢れた。
(仙水さんは・・・きっと神官としてだけじゃない、葵さんのことが・・・・)
ただ一人残された曄子は、仙水へ想いを告げることも叶わず・・・その小さな恋に幕を閉じた。
―――――・・・
「あなたは優しすぎる。
他人のことを想いすぎるのだと思います」
諭すように秀悠が葵を見つめた。その瞳は葵を責めるのではなく、何かに気が付いて欲しいというような願いが秘められている。
「もっとご自分の幸せを望んでください」
秀悠の言葉に目を見開いた葵は、時がとまったように思考を停止させた。
「幸せって・・・なに・・・?
私の幸せは・・・この世界が・・・・」