己を縛るモノU-1
「そうですか・・・
九条さんは葵さんを愛していらっしゃるのですね」
ピクっと葵の肩が震え、背後から九条を見つめるその瞳には戸惑いの色が見えた。
「・・・ですが九条さん、それは敬愛というものではないのですか?」
冷静に判断をくだす秀悠は九条の言葉にも怯まない。
「偉大なる王を敬愛してやまないのは、その存在が眩しいからではないのですか?」
秀悠のその言葉を聞いた葵は、胸の苦しさに耐えられず、重い口を開いた。
「ごめんなさい秀悠さん・・・
彼らの・・・、神官たちの自由を奪ってしまったのは私なんです」
ぎゅっと手を握りしめている葵は、神官たちの・・・永遠にも等しいその時間を自分が拘束してしまったことに罪悪感を感じた。
―――――・・・
「葵様?」
はぐれてしまった仙水は葵の姿を探して動き回った。昨日と同じような状況にくすっと笑った仙水の傍に足音が近づく。
「普段は葵様って呼んでいるんですね、仙水さんは」
葵とは違う鋭さを含んだ少女の言葉に仙水は笑みを消して振り向いた。
「・・・曄子さん」
曄子は仙水の目の前まで来ると、艶やかな仙水の髪を指先ですくい、愛しそうに唇を寄せた。
――――パシッ
乾いた音が響く。仙水が手の甲で曄子の手を払ったのだ。
「・・・何か御用ですか」
穏やかな仙水にしては珍しく、不機嫌さを含む言い方だった。
「ふふ・・・神官様って本当に高潔な存在なんですね」
「・・・・」
曄子の言葉を無視して仙水は歩き始めた。曄子がいるということは、秀悠もいるに違いない。
「葵さんを探しているの?
あ・・・王様なんだから葵様って言わなきゃいけないんだったね?」
曄子のトゲのある言い方にも動じず、仙水は背をむけて離れてゆく。
「・・・っ!!
何よ・・・っ!!葵さんは王様なんだから何でも持ってるんでしょ!?永遠の時間も素敵な神官たちもいて・・・っ!!苦労も知らないくせに・・・王だからって恵まれ過ぎてるのよっっっ!!!!」
「・・・・」
ピタリと歩みを止めた仙水。その瞳は温度が感じられないほどに冷たく、鋭くなってゆく・・・。曄子の罵声が仙水の逆鱗に触れてしまったのだ。