己を縛るモノT-1
真剣なまなざしの秀悠の視線を受け止めて、葵は彼のあとをついて行った。
「・・・葵さんはご存じですか?
この世界には偉大な王がいて、さらに王に仕える美しい神官がいる。彼らは時間に囚われることなく生き続け・・・深い愛をもつ者たちだと」
ぴたりと足を止めた秀悠は葵へと向き直る。
「偉大な王の名は葵・・・
彼女を支える神官の名は・・・仙水」
きゅっと唇を噛みしめる秀悠は葵との距離を詰めた。
「葵さん・・・私は貴方が・・・王であって欲しくないと願う中で、あなたの不思議な力を前に・・・どんな説明もつかなくて・・・・っ」
今にも泣き出してしまいそうな秀悠に見つめられ、葵は眉を下げた。
「なぜ・・・そんなに悲しそうな顔をするのですか?」
戸惑いながら秀悠に伸ばした葵の手は宙をつかんだ。
「王や神官の愛は・・・この世界に生きるもの全てに平等に注がれている。でも・・・人は違います。たった一人を愛し、愛されてこそ幸せなのだと私は思います」
秀悠の視線に耐えられず、葵は顔を背けた。
「王は・・・、
・・・葵さんは幸せですか?」
その言葉にはっとした葵が驚いたように秀悠を見上げた。
「あなた方は・・・誰の愛にも応えないおつもりですか?」
にじり寄る秀悠に押され、葵は一歩後ずさる。
「私は・・・王ではありません」
葵は秀悠の言葉に動揺していた。自分だけならまだしも、傍には神官がいる。彼らの幸せを自分が奪ってしまっているのではないか?
「・・・神官は仙水だけではない」
「何か勘違いしているようだが・・・王が個人の愛を受け入れてはならぬという誓約などない・・・」
葵の背後から現れた九条は冷たく秀悠を見据えている。
「あ、あなたは・・・?」
九条のその人間離れした美貌と威圧感から、ただの人間ではないことを秀悠は肌で感じ取った。
「私の名は九条・・・
神官の愛が民に向けられているというのは大きな間違いだ」
そう言い放つと九条は秀悠と葵の間に割って入った。その大きな背で葵を背後に隠す。
「神官は他の誰でもない・・・唯一無二の我が王を愛し、守る存在」
なんの迷いもなく九条は秀悠に告げた。冷酷とも思える言葉の裏には葵への愛が隠されている。