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『正夢』
【青春 恋愛小説】

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『正夢』〜高山渉の一日-3


携帯を切り、その場で珊瑚を待つことにした。しかし、どうやって言い訳しよう?珊瑚はケンカが嫌いなので、今の状況をみたら何を分言われるかかったもんじゃない。上手な言い訳が見つからずにしばらく悩んでいると、珊瑚が走ってきた。俺の目の前で彼女は止まった。
「よ、よぅ」
何を言っていいか分からず、とりあえず挨拶をする。珊瑚は俺のことをまじまじと見ると、こちらを睨んだ。怒った顔もかわいいなぁなどと思っていた時だった。
パァン!!
小気味いい音と共に頬に強烈な痛みが走った。同時に視界が揺れる。
「痛ってぇ!」頬を手で押さえながら珊瑚を見て驚いた。
「なんで泣いてんだよ…?」珊瑚は、涙を流しながら俺を睨んでいた。そして、顔がどんどんと泣き顔になっていき、その場で泣き始めてしまった。
俺は体の痛みも忘れて、彼女を必死になだめながら神社へ向かった。


ちょっと長い石段を上り、神社の境内へとたどり着いた。元々人の入りが少ない上に、平日の夕方ということもあって誰一人いなかった。翔たちと知り合う前までは、学校帰りにここに来ては夕日を見ていた。ここから見える夕日はとても綺麗だ。
石段に二人で腰をおろす。珊瑚はおもむろに話し出した。泣きやんではいるが、まだ上手く話すことが出来ないらしい。
『なんで…けんっ…ケンカなんかっ、したの…?』声に詰まりながらも、珊瑚は俺に問い掛けてきた。
「いつものことだよ。売られたから買っただけ。珊瑚こそ、何泣いてんだよ?」
『心配だったからに…決まってるじゃん』
「俺のこと心配してくれてたの?」

驚いた。珊瑚が俺のこと心配してくれてたなんて…。嬉しい反面、罪悪感が胸を刺す。
『好きな人がケンカして…心配しないわけないじゃんっ…』

聞き間違いだろうか。今、好きな人って…。
『本当は…私も今日ここに来たかった』珊瑚は独り言のように話し始めた。
『お母さんが、好きな人とここに来れば両想いになれる。私はそれでお父さんと付き合ったって…』もう泣きやんだのか、声の震えも止まっている。俺は落ちていく夕日を眺めがら聞いていた。
『本当は、今日は最後にここに来たかったの。ここで、高山くんに好きって言いたかったの…』となりでぽつりぽつりと話す珊瑚の声は、とても俺を安らかな気持ちにさせてくれた。その時、不意に頭の痛みに襲われた。この景色、珊瑚の声。まさか…。
「正夢だってのかよ…」
俺は横を向き珊瑚を見つめた。珊瑚は喋るのをやめてこちらを見る。いくぜ、渉!ここで言わなきゃ男じゃないぞ!心の中で覚悟を決めて、ゆっくりと口を開いた。
「…俺も、珊瑚が好きだよ」珊瑚が驚いた顔でこちらを見る。「最初に翔が二人を紹介してくれた時から、好きだった…」『本当に…?』「珊瑚は、俺なんかでいいのか?また心配させるかもしれない」『構わないよ…私は高山くんが好き』

「俺とつ…付き合ってくれるか?」なに言葉かんでんだよ!自分で言って情けなくなる。
『いいよ…』


帰り道を珊瑚と一緒に帰る。傷が痛むからゆっくり帰る。今日一日でいろいろあったけど、まさか朝の夢が正夢になるとは…。
『どこか痛いの?』
珊瑚が不安気に聞いてくる。今はその顔すら可愛く思える。
「大丈夫だって。それよりさ、翔たちみたいに俺たちも朝一緒に学校行こうよ。」

二人で手を繋いで帰る。今までと違う距離感に恥ずかしさを覚えながら。夢よ、正夢になってくれてありがとうな。

〜終わり〜


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