『正夢』〜高山渉の一日-2
珊瑚と一緒に帰り道を歩く。話し声、よく変わる表情、そして、この居心地のいい雰囲気。俺、珊瑚のこと好きなんだなぁ…。
今までに何度か珊瑚に思いを伝えようとは思った。付き合いたいと思った。
だけど、今までずっと友達として付き合ってきたのだ。いきなり俺が気持ちを伝えたら彼女は俺を拒むだろう…。それだったら友達の方がいい、これからもずっと友達の方が…と俺は自分にいい聞かせてきた。
「…ねぇ、高山くん」珊瑚の一言で我に帰った。やばいやばい、自分の世界に飛んでしまっていた。
「どうした?」『あの人たち…』言われて道の前を見てみると、見たことのある男たちが四人固まっていた。あいつら…。いたのはこの前バイト先でのした奴らだった。大方やられた仕返しだろう。一人は殴った覚えがある顔だった。
「わりぃ、珊瑚。あいつら友達なんだ。先に帰っててくれるか?」『そう、なの…?』
珊瑚が怪訝な顔をして聞いてくる。我ながら下手な嘘をついたもんだ。だけど、珊瑚を巻き込みたくなかったし、心配させたくなかった。
「あぁ。んじゃ、また後でな!」珊瑚に追及される前に男たちの方に俺は走った。
地元の奴しか知らないような入り組んだ小さな路地に入る。周りはビルが建っているため、人目につきたくないことをやるにはもってこいだ。リ―ダ―格の男が聞いてきた。『お前、光堂館高校の高山だってな?』「そうだけど?」腹の中は煮えくり返っているが、出来るだけ平静を装った。ちくしょう…。せっかく珊瑚とデート(自分が思っているだけ)してたのに…。
『ケンカが強いって有名だよなぁ。だけど、こっちは四人だぜ?』……別にケンカで有名にはなりたくなかったんだが。リ―ダ―格の男はまだ話を続ける。『俺たちさ、今金無いんだよね。だから、一人五万、四人で二十万で許してやるよ。払うだろ?』
もう話を聞くのも飽きた。それに、金を払う気なんか毛頭ない。俺は、一番近くにいた奴の頭をわしづかみにした。男が慌てて引き剥がそうとする。しかし、そんなことは気にせずに、男の頭をビルの壁に叩き付けた。ゴツッ!という鈍い音と共に男は崩れ落ちた。
「これで十五万だな?」『なめやがって…やるぞ!』男たちがこっちに向かってくる。
一人目の拳を後ろに下がってかわす。拳を戻す前に腕を掴み、空いてる手を相手の首元に入れ、そのまま振り回した!!
「おおぁっ!!」ビルの壁に叩き付け、間髪入れずにみぞおちを蹴りあげた。蹴られた男はうめき声を上げながらもがいている。しばらくは動けないだろう。これで残りは二人。入り口側を男たちが塞いでいるが、狭い路地なので囲まれる心配はない。簡単な話だ。こいつらをぶっ飛ばせばいいのだ。
「なぁ、もうやめないか?」一応説得してみるが、俺の言葉には耳を傾けずに男たちは突っ込んでくる。
「ちっ…容赦ぁしねぇぞ!」俺も男たちに突っ込んでいった。
「痛てて…」体中を擦りながら俺は呟いていた。流石にリ―ダ―格の男はそれなりに強く、痛手を負ってしまった。「まぁ、あいつらもしばらくは動けねぇだろ」
そう独り言を呟いていると、携帯が鳴った。今は携帯を取ることすらかったるい。しかし、無視するわけにもいかず、取り敢えず画面を見た。珊瑚からだ。急いで携帯に出る。
「もしもし…?」
『今どこにいるの!?』なんか凄い剣幕だ。「さっきのやつらと遊んでるけど?」
『翔はそんな友達知らないって言ってたよ!!』
翔の奴、余計なことを…。流石にこれ以上怒ってもらっても困るので降参した。
「…神社の近くにいるよ」『今から行くから、そこ絶っ対動かないでね!』「わかったよ…」