志を支えるものU-1
徐々に葵の手から光が消えてゆく。
最後の輝きの粒子を見届けると、老婆の脈は安定し、呼吸も規則正しいものへと変化していった。
ほっと胸をなでおろした秀悠は葵と仙水に向かって頭を下げた。
「葵さん、仙水さん本当になんとお礼を申し上げたら良いかわかりません・・・あなた方のお力がなければこの人を助けることは出来なかった・・・」
「いいえ、貴方の人を助けたいと願う・・・その心の強さが大事なのです」
仙水は微笑んで秀悠の肩に手をのせた。
「私たちは貴方のような志をもつ方の力になりたいのです」
そう言う葵の瞳はとても慈悲深く、全てを包むような優しさをたたえていた。
すると、
扉を叩き、心配する少女の声や近所の大人たちの声が響いた。
「先生!!
ばあさんの様子はどうなんですかっ!?」
「おばあちゃんっ!!
先生・・・っ!!おばあちゃんに会わせて!!」
小さく頷いた葵と仙水を確認して秀悠は扉をあけた。
孫の声で目が覚めた老婆は、薄く目をあけ・・・飛び込んできた孫を優しく抱きしめた。
「おばあちゃぁぁああんっ!!!!」
大粒の涙を流し、喜ぶ少女の姿をみて秀悠は胸が熱くなった。
「さすが秀悠先生だっ!!!」
「秀悠先生は町一番の名医だっ!!!」
その声を遠くに聞きながら葵と仙水は家から離れてゆく。
「もう朝食の時間は過ぎてしまいましたね、今日は森の恵みは諦めるとしますか」
ふたりが採った籠いっぱいの実りの半分は秀悠の家で調理され、葵の籠もその場に置いたままだ。
「そうだね。今日は諦めて、また明日にしましょう」
そんな会話をしながら歩いている二人の姿を、別の二つの影が追いかけていることに葵も仙水も気が付かなかった。
そして通りから反れた道に入ると・・・
「おいっ!!なんだよ楽しそうに!!」
頭上から降ってきた聞きなれた声に驚き、葵が視線を上げると・・・八重歯の可愛い蒼牙が木の上からこちらを覗き込んでいるのが見えた。
「あ・・・蒼牙」
立ち止まった葵の目の前に、蒼牙が音もなく着地する。
「二人で何やってたんだ?出かけるなら起こしてくれてもいいんじゃねぇか?」
置いてけぼりをくらった蒼牙は不服そうだ。