第5話-2
―――数分後、お湯が半分程溜まっただろうか。
引き戸を開く音がし、反射的に英里は目を閉じた。
「…何で目閉じてんの」
「は、恥ずかしくて…」
「俺の裸なんてもう何度も見てるだろ?」
「恥ずかしいものは恥ずかしいんです!」
「ふーん、そういうもん?」
「圭輔さんは私と違って、さぞご自分の体に自信があるんでしょうけどねぇ」
目を瞑ったまま、拗ねたような口調で英里は小言を呟く。
「っとに、英里は綺麗だって言ってるのに…」
そう小声で呟きながら、圭輔は湯船の中に体を浸す。
自分の背後に彼が入ってきたのを感じて、英里は体を震わせた。
膝を抱えて小さくなるが、狭い浴槽の中ではどうしても二人の体は密着してしまう。
圭輔の両足の間に自分の体が収まってから、英里はようやく目を開いた。
「ごめんな、まだお湯が溜まってなかったから寒かっただろ?」
「へ、平気です…」
動揺を隠しきれず、英里はしどろもどろに答える。
心臓の音が静まらない。
「英里、緊張しすぎ…風呂なんだからもっとリラックスして入れよ」
微苦笑交じりに、圭輔が後ろから英里の肩を抱きしめながら声を掛ける。
「…だったら出て下さいよ…」
「それは、やだ」
「…。」
しばらく2人無言でお湯に浸かっていると、だんだん英里の緊張も解れてきたようだ。
当初の言葉通り、彼は何もしてくる気配がないので、警戒心を解き始めたとも言える。
その頃を見計らって、圭輔は英里に優しく声を掛けた。
「最初は上手くいかなくても、これからきっと楽しくなっていくから心配するな」
「…え、何の事ですか?」
「英里は不器用だから、大学で苦労してるんじゃないかなぁって思って」
「どうして、わかったんですか…?」
「先生はねぇ、生徒の些細な変化にもしっかり気を配らないと務まらないんです」
英里は振り向いて圭輔の顔を見ると、いつもの穏やかな笑顔の彼がいる。
包み込んでくれるようなその優しい眼差しに、英里は安らぎを感じた。
「…まだ1ヶ月しか経ってないのに、私、4年も通えるのか不安で…」
落ち込み始めた彼女を慰めるように、圭輔は彼女の頭を撫でてやる。
「マイペースなのが英里のいいところなんだし、焦らなくても大丈夫だって」
彼にそう言われると、何だか自分がとてもつまらない事で悩んでいるような気さえしてくるのだから不思議だ。英里は彼の方に顔を上げると、
「…先生は、やっぱり先生なんですね」
「ははっ、何だよそれ…」
「私が出会った先生の中で、一番…いい先生です」
「ありがと…でも、もう俺は英里の先生じゃないから…」
「私の中では、ずっと先生です」
少し落ち込んでいた自分を見抜いて、励ましてくれる。彼のそんなところが本当に愛しい。
「うーん、そう言われるとちょっと複雑だなー…」
「そうなんですか…?」
「だって、いつまで経っても生徒に手ぇ出してる教師から抜け出せない感じがする」
そう愚痴りながら、圭輔は英里の胸に両手を持っていく。
突然の彼の行動に、英里は驚いて再度振り向くと、
「ちょっ、何もしないって…!」
「英里は可愛いなぁ…俺の言う事あっさり信じちゃって。この状況で俺が何もしないままでいると思った?」
圭輔は悪戯っぽい笑みを浮かべて、彼女の頬に口付ける。
「な、何当然のように言ってるんですか!?」
後ろから胸に添えられた手を彼女は外そうとするが、力で敵うはずもない。
「…英里、胸大きくなった?」
「えぇっ!?何でわかっ……て、そんな事聞かないで下さい!」
うっかり正直に答えそうになってしまうのを何とか堪えて、英里は抵抗を続けるが、それを意に介する事もなく、
「んー、何か触り心地が…」
しっかりと自分の手に収まっている、ほんのり桜色に染まった英里の胸を、圭輔は愛おしそうに揉みしだく。
「やっ、も、揉まないでっ!」
口では拒否しつつも、英里の瞳は次第と潤み、頬が赤く染まってきている。
薄く開かれた唇から漏れる微かな吐息も、狭い浴室内では大きく響く。
「あっ…!」
彼の指が不意に先端の蕾に触れて、英里は思わず高い喘ぎ声を漏らすと、それを合図にするかのように圭輔の手はさらに大胆になる。
閉じていた英里の両脚の間に手を進め、英里の体の芯を捉えた。
「やっ、だめ…!」
こんなところでそこに触れられては、おかしくなってしまいそうだ。
そんな英里に構わず、圭輔は彼女の首筋に口付けながら、敏感な部分に触れると、彼女の体が大きく震えて、水面に漣が立つ。
黒い茂みの中を指でまさぐられる度に、英里の体は小刻みに震える。
「い、意地悪…っ」
「これって意地悪?」
「だって…私の反応見て、からかってるんでしょう!?」
「からかってないよ、感じてる」
圭輔は愛撫を止め、耳元で急に少し低い声で囁く。
「…俺以外の男の言う事はすぐに信用するなよ」
「え?」
意外な言葉に、思わず英里は圭輔の方を振り向く。
「男と2人きりで飲みとか絶対行ったらだめだからな」
英里の通う学部は、生徒の男女比が9:1の理工学部。
そんな男だらけの環境で、(隠れ)美人の彼女は、きっと誰かに目を付けられるに違いない。
彼女自身に自覚がないだけに、無防備なところがますますの不安要素だ。
圭輔はほんの少しだけ、自分と彼女が同じ年だったら…などという、どうしようもない思いに駆られる。
「どうしてですか?友達としても?」
「友達でも男なんだぞ。酔わせてどっかに連れ込まれでもしたら…」
「それって、まさか自分の経験談じゃないですよね?」
「あ、当たり前だろ。人聞きの悪い事言うなよな…」
ふふっ、と英里は可笑しそうに笑う。
「私の事心配してくれてるんですよね?大丈夫ですよ。私には、圭輔さんだけですから」
「英里…」
圭輔は背後から英里の体をぎゅっと強く抱き締めると、彼女も彼の胸にもたれて、身を任せる。