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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第5話-3

英里の顔を上に向かせて、そっと口づける。
「…出よっか」
「え、もうですか?やっとお湯が溜まったのに…」
「ここじゃ狭すぎて英里を思いっきり抱けない」
直接的なその発言に、英里の顔は急激に真っ赤に染まる。
「嫌?」
彼女は無言で首を左右に振ると、少し躊躇いがちに小さな声で呟く。
「…嫌じゃない…です」
「じゃあ、俺先に出てるから」
「…はい…」
圭輔が出て行って1人湯船に浸かったままの英里は、これから訪れるその瞬間を想像すると、ますます頬が熱くなるのを感じた。

(…遅い…)
圭輔が浴室を出てから20分程経つが、未だに英里は出てこない。
(やっぱ、一緒に連れ出せば良かったな…)
久しぶりに英里の屈託のない笑顔を見ると、抱きしめたい衝動に駆られてしまう。
先程浴室で触れた時の、困惑したように目を泳がせて、頬を恥ずかしそうに赤らめる表情も可愛くて、情欲をそそられる。
(早く来いよ…)
そう熱望しながら、圭輔は缶ビールを1本飲み干した。
アルコールによって、冷めかけた体が少し熱を取り戻す。
ようやく、浴室の方からカタンと音がし、バスタオルを巻いた英里の姿が現れた。
その瞬間が近づいた事に、圭輔の胸は高鳴る。

「あ…」
決心のついた英里がようやく浴室を出ると、圭輔がタオル1枚の姿で缶ビールを呷っていた。
嚥下する度に上下する喉仏に、彼女の目は釘付けになる。
自分を求めてくれる時も、その部分が動いて…
圭輔が自分を見つめているのに気付くと、彼女は慌ててそこから視線を外す。
目を逸らしても、彼の視線が注がれているのが自覚できて、そこから動けない。
「…英里、おいで」
声を掛けられ、再び視線を戻すと、その先には薄く微笑んだ圭輔。
ふらふらとした足取りで英里は圭輔の元へと歩いてゆくと、すぐに彼に抱き寄せられ、床の上に優しく押し倒される。
彼女の上に覆い被さって、圭輔は何度も何度も、愛おしさを込めて口付ける。
待ちわびた柔らかい感触。お風呂上がりで彼女の体が熱を帯びて、熱い。
一息吐いて、顔を上げると、
「下、体痛い?」
「平気です…」
早くも意識が蕩けてきた英里が、かすかな声で答える。
その事を確認すると、圭輔は再び英里に口付ける。
舌を絡めながら激しく彼女を求めると同時に、バスタオルを外していく。
英里の白い肌はほんのりと蒸気して薄い桃色に染まっている。
互いの肌が触れ合う、温もりが心地よい。
既に堅くなっている胸の中心の赤い突起に口付けると、英里は薄く口を開いて喘ぎ声を漏らす。
―――英里の体を愛撫していると、ふと、彼女の反応が薄くなってきている事に圭輔は気付いた。
「英里…?」
「え…?」
英里はぼんやりと圭輔の顔を見つめる。
眼鏡をしていないせいもあるが、彼の顔の輪郭がはっきりしない。
蜃気楼のように、どんどんと彼女の視界が揺らいでいく…。

「あ…れ?」
耳元で自分の名前を呼ぶ声が響く。
軽く、気を失っていたようだ。まだ、体が少し気だるい。
「気が付いた?」
「私…」
「のぼせてちょっと倒れたんだよ」
苦笑いを浮かべながら、圭輔がそう告げる。
「ごめんなさい…!」
慌てて起き上がって、英里は申し訳なさそうに身を縮める。
最後までしていないのに、2人共裸のような状態でいるのが妙に照れてしまう。
「いいよ。俺こそ、無理させたから…」
「いえ、無理だなんて…。あの…その、続きは…」
恥ずかしさで、語尾の方はほとんど消え入りそうな声だった。
「続きは、また今度な…」
あまり彼女に無理をさせないよう、圭輔は平静を装ってそう告げ、英里の髪を慈しむように梳く。
英里もおとなしくその行為に身を委ねる。
「こうやって、圭輔さんに髪を触られてるとすごく落ち着く…」
「俺も」
たとえ体を合わせなくとも、とても満たされた気分になる。
「もう、そろそろ帰らないと」
「そうですね」
名残惜しく、少しの間、静寂が二人を包む。
昼間からずっと傍にいるのに、まだまだ一緒に居たいと思ってしまう。
「今度は、いつ会えますか?」
「そう、だな…これから試験でちょっと忙しくなりそうだから、5月いっぱいは…」
「あ、そうですよね。いいんです、時間が空いている時で…」
圭輔が考え込んでいる間に、英里は慌ててそう言った。
「ごめんな。また、連絡するから」
「気にしないで下さい。仕事頑張って下さいね」
英里はにこりと微笑んで、手早く着ていた服を身に着ける。
「じゃあ、今日はどうもありがとうございました。また今度……」
笑顔を浮かべたまま、圭輔の家を後にする。
ドアが閉まった直後、少しだけ彼女の表情が曇る。
実は、卒業してから、2人はあまり接点がなかった。
平日はほとんど顔を合わせる事ができた高校時代と違い、今は月に1・2度しか会えない。
会う事は勿論、英里は社会人である彼の負担になる事を恐れて、自分から電話やメールもほとんどする事はなかった。
彼に嫌われたくないから、彼を困らせるようなわがままは極力言わない、しない。
付き合い始めた直後よりも彼に惹かれている今は、とても淋しいが、英里は我慢するように努めていた。
英里が出て行った後、圭輔も少し顔を顰めた。
教師としてはまだ駆け出しの自分、しかも今年は初めて担任を持った。
彼女が少し残念そうな表情をして見せたのはわかっていたが、今は仕事で慣れない事が多く、正直、余裕がない。寂しい思いはさせないと誓ったというのに、
「ダメだなぁ、俺…」
名残惜しそうな彼女の表情を思い浮かべながら、彼は深い溜息を吐いた。
まだ熱く滾った体を持て余しながら、門限付きのお付き合いはつらいと、内心やるせない思いが渦巻いているのだった。


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