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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第5話-1

「美味しい…」
「うまい?」
「はい、すっごく!」
英里は料理の感想を口にしながら、満面の笑みを圭輔に向ける。
時は、桜が散ってすっかり瑞々しい青葉に変わってしまった、4月の終わり頃。
彼女が高校を卒業して以来、2人は久しぶりに会っていた。
新学期から圭輔はクラス担任を持つ事になり、英里も大学に入学して新生活に慣れるまで、互いに忙しくてなかなかゆっくり会う時間が取れなかったのだ。
そして日曜日の今日、彼の家で、昼過ぎからずっと和やかな時間を過ごしていた。
今は早めの夕食を取っている。勿論、全て彼の手料理だ。
嬉しそうに自分が作った料理を口にする彼女を見ていると、圭輔にも自然と笑顔が零れる。
「大学は、どう?」
「少し慣れてきましたけど、別に何も…」
「まぁ、まだ入ったばっかだしな」
「圭輔さんこそ、新しいクラスはどうなんですか?」
在学中、彼はクラスの数学担当というだけで、授業がある日にしか会えなかった。
一応、副担任ではあったが、あくまで担任の都合が悪い時の代理という立場なので、表立って教室に来る機会もほとんどなかった。
担任だと、毎日会えていたのに。そう思うと英里は少し羨ましくなってしまう。
「ん?あぁ、みんないい子ばっかりだよ。1年生だからまだまだ素直な子が多くて」
「……そうですか」
教師としてとても充実している時期なのだということが、その明るい笑顔から十分に察せられた。
それに引き換え、自分はどうだろう。
さっきは適当にはぐらかしたが、大学生活の滑り出しは決して順調とは言えないのだ。
理数系が得意だったこともあり、理工学部に入ってしまったせいで、学部生の大半は男ばかり。
元々人付き合いが上手い方ではない彼女は、なかなか馴染めずにいた。
こんな風に彼と会うのは約1ヶ月ぶりだというのに、ふとうわのそらになってしまう時がある。
2人が知り合って今年は3年目、圭輔はだいぶ英里の状態がわかるようになっているので、当然この時もどこか心ここにあらずの様子の彼女に気づいていた。
英里はぼんやりしたまま食事を続けていると、うっかりコーヒーをこぼしてしまった。
「あっ…!」
彼女が身に着けている春らしい淡いピンク色のシャツに、みるみるシミが拡がっていく。
「な、何か拭くもの…」
慌てて立ち上がろうとすると、圭輔が先に台所から布巾を持ってきて机の上を片付ける。
「服は早く洗った方がいいよな…取れなくなると困るし」
「ごめんなさい…迷惑掛けちゃって」
恐縮して、英里は身を小さくする。
こういう時も自分はうろたえているだけで、彼の方が手際良く対処してしまうのだ。
「いや、別にいいんだけど。…そうだ、風呂でも入る?その間に俺洗っとくから」
「え、そんな大丈夫です、ハンカチか何か濡らしてきますから……」
英里は手を振って固辞するが、彼は既にその気のようだ。
「ほら、早く脱いで」
「…いいですってば!」
「まぁまぁ、一緒に風呂入りながら洗っちゃおうぜ」
「はぁっ!?何か話変わってないですか!!?」
「いいからいいから」
「…っ良くない!!」
楽しそうな笑顔で迫ってくる圭輔に、英里の叫びは届かなかった…。

「…。」
お湯に浸からないよう、髪を結んだ英里は、苦い顔をして浴槽の中にしゃがみこんでいた。
結局、押し切られて英里は渋々承諾したのだった。
浴槽の広さは、ちょうど2人が並んで入れる位で、お世辞にも広いとは言えない。
いや、この正直築何年経っているのかわからない古ぼけたアパートなら、各部屋に浴室があるだけましなのかもしれない。
お湯はまだ足首あたりまでしか溜まっていないので、少し上半身が肌寒い。
彼は何もしないと言っていたものの、何故一緒にお風呂に入る事になってしまったのか…。
洗面所で、圭輔は英里が着ていた服のシミ抜きをしている。
「あの…」
英里はドアの向こうに立っている彼の影に声を掛ける。
「何?」
「やっぱり一緒にお風呂に入る意味がわからないんですけど…」
「一人で入るの淋しくない?」
「…全っ然淋しくないです。そうじゃなくて、お風呂に入る必要がないって言いたいんです!」
彼のペースにはまっているのが悔しくて、つい刺々しい言い方をしてしまう。
「もうすぐ洗い終わるから」
そんな英里の言葉を無視して、圭輔は明るく返事を返す。
「…ありがとうございます…」
何と答えれば良いかわからず、とりあえず英里は洗ってくれたお礼を溜息混じりに告げた。
もうすぐ彼がここに入ってくる。
お湯は、ようやく彼女の下腹部の辺りまで溜まっていた。


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