愛のカタチT-1
落ちた眼鏡を葵が拾い上げると、片方のレンズにはヒビが入っていた。
「眼鏡・・・割れてしまいましたか」
ははっと笑う秀悠が葵の手から眼鏡を受け取る直前、葵は指先でレンズに軽く触れた。
「いいえ、眼鏡は無事です」
にこにこと笑う葵から眼鏡を受け取ると、秀悠は首を傾げた。
「・・・あれ?」
角度を変えてみてもヒビどころか、傷ひとつない。使い古した眼鏡だったはずなのに新品同様の輝きをみせている。
「一体何が・・・」
秀悠が葵を見つめていると、別の声があがった。
「せんせいーっ!!」
声のしたほうへ目を向けると、数人の子供たちが大きく手を振っていた。
「おや?皆早起きだね」
駆けてきた子供達の頭を優しく撫でながら、秀悠はひとりひとりに声をかけている。
その中に、葵と同じくらいの年のおさげを結った少女が仙水と葵の姿に気がつき、こちらに向かって歩いてくる。
「秀悠先生のお友達ですか?」
「いえ、先程森でお会いしたばかりで、ここまでご一緒させていただいたんです」
柔らかく答えた仙水を見た少女の動きが止まった。異国の王子様のような整った顔立ちに、透き通った美しい水色の瞳。その瞳と同じ色の艶やかな髪も品の良さを醸し出している。
「わ、わたし・・・曄子(ようこ)って言います」
ガシッと仙水の手を掴んで少女は名乗った。秀悠との経緯を説明した仙水の言葉が聞こえていたかどうかはわからない。
「私は仙水と申します。彼女は葵です」
あくまで人界の民を装っている葵と仙水は対等な立場として振る舞っていた。
葵と呼ばれた少女に目をむけると、彼女もまた天使のように美しく、慈悲深い瞳をしていた。
仙水の手が葵の背に触れており、肩もくっつきそうな程の距離を保っていた。
曄子の様子を不思議がるふたりは顔を見合わせているが、その姿さえ美しく・・・誰もが見惚れてしまうほどお似合いだった。
「仙水さん、葵さんお茶でもいかがですか?」
秀悠が子供達に囲まれながらこちらを振り返った。
「ありがとうございます、是非」
仙水は葵に微笑みをむけると、葵もそれに頷きふたりは曄子の横を通り過ぎた。