THANK YOU!!-6
「にしても・・瑞稀の鈍さには頭が上がんないな」
「・・馬鹿にしてる?」
「いや、呆れてる。」
「・・・・拓斗の馬鹿」
甘い雰囲気はどこへやら。
いい加減上がらないと風邪を引きそうだったので、プールサイドに再び座って秋乃に電話をして着替えを持ってきてほしいと頼んだ。
渋々、秋乃は承諾してくれた。が、拓斗と一緒だと言ってないのにも関わらず、拓斗と何があったか話すことを条件に出されて一方的に切られてしまった。
嫌な予感を感じて、携帯を先ほどと同じようにプールから離して置くと、拓斗から冒頭の言葉が投げかけられた。
自覚し始めていることなので、瑞稀は顔を引きつらせた。だが、やはり文句が出ない。
決して、先ほどの甘い空気に当てられたとかではないっ!
と力強く否定していると、拓斗が傍に近づいてきて瑞稀の頭を撫でたあと頬へ指を滑らした。
その自然さや妖艶さに、瑞稀は顔を真っ赤にさせた。
「だって、お前、俺がずっと好きだったこと気付かなかったろ?」
「うっ・・それは・・」
自分の頬に添えられている拓斗の手に目線が行きながらも拓斗の問いに言葉が詰まる。
その温もりに触れていたい瑞稀は振り払うことも、手を掴んで離させることも出来ない。
多分、拓斗は確信してやってるんだろうなと思いながらもどこか憎めない。
本気で、拓斗が好きすぎて重症だなと苦笑いした。その様子に拓斗が首を傾げ、「どうしたのか」と聞いてきた。「何でもない」とかわしてみるも、それに満足される訳がない。
拓斗は距離を縮め、瑞稀の顔を覗き込んだ。
「・・なんだよ」
「っ・・だ、から・・その・・本気で、拓斗のこと・・好きで仕方ないんだなって思って・・重症だなぁって思っただけっ」
「・・・・」
一瞬、驚いた顔をされたがすぐに俯かれてしまった。
え、素直に答えたのにと思った瑞稀は、何かマズイことを言ったかなと内心ハラハラし始めた。想いが伝えられたばかりなのに、すぐにケンカなんて嫌だ。
どう言葉を訂正しようかと考えていると、ギュッと抱きしめられた。冷たい体温が、やけに心地いい。
「って・・そうじゃなくて・・な、なにっ・・」
「お前さ・・、ホント・・鈍すぎだし無自覚だし・・」
「・・(あれ、なんか馬鹿にされてない?私)」
「だから・・好きなんだな・・俺」
「・・・っ・・(なんか・・また告白された・・)」
恥ずかしくなり、瑞稀は拓斗の胸に頭を預けた。
本当にこんな関係になれると思っていなかったから、本当は凄く戸惑っていた。
それでも、ただただ真っ直ぐに愛を注いでくれる拓斗が好きで・・愛しくて、嬉しくて、泣きそうになった。
「・・瑞稀・・って、な、何で泣いてんだよ」
顔を離して顔をのぞき込まれた時に、一筋の涙に気づかれてしまった。
が、何を言う前に拓斗はその涙を拭ってくれた。慌てている拓斗が少し可愛く見えた。
「・・(そういえば・・)」
誰かが、言ってた気がする。誰かに対してだったけど・・。
『好きなお姫様を守るのが男の役目。その子が遠くで泣いていたら、傍に行って涙を拭って、笑わせてあげることです。』って。
瑞稀は無意識に、拓斗の頬に自分の右手を滑らした。それに驚いたのは勿論拓斗。
「み、瑞稀・・!?」
「・・・誰かがね、誰かに『好きなお姫様が泣いてたら、傍に行ってその涙を拭って、笑わせてあげることです』って言ってたから」
そうまとめられた言葉を言われ、校長に同じことを言われたことのある拓斗は、固まった。
が、すぐに瑞稀の腕を掴んで引き寄せてキスをした。
時間にしてみれば10秒という少し長く感じるキスから開放すると、顔を真っ赤にさせた瑞稀が口をパクパクして驚いていた。
そんな愛しい人に、拓斗は不機嫌を隠すことなく、
「それは“校長”が“俺”に言った言葉だし、俺は“お姫様”じゃないし、“泣いて”ない!!」
「・・・・。・・あ、ご、ゴメン・・」
早口で言われた言葉にとりあえず謝ったが、少しして自分のやったことと拓斗の不機嫌な叫びを合致させた瑞稀は笑い出した。それはお腹を抱えるくらい。
大笑いされた拓斗はますます不機嫌になったが、こうなった瑞稀はなかなか笑いを止められない事を知っているので大人しくしていた。