THANK YOU!!-5
「・・・・・」
愁が居なくなったことを確認した瑞稀。
安堵のため息をついた瞬間、足が震えてすくんだのが分かった。どうにかしようと、どこかに寄りかかろうと思った。
それも、一瞬でその場に崩れ落ちた。どさっといい音がした。
「・・・・馬鹿・・みたい」
小さく呟いた瑞稀は、愁の言葉を思い出した。
・・「好きな人知らない?」
「そんなの、こっちが聞きたいよ・・っ!!」
振り絞って出た掠れた声に押されたように、瑞稀の両目からポタポタと地面に向かって透明な涙が溢れ、落ちた。
その水には、瑞稀の想いが沢山詰まっている。それだけじゃない。拓斗との思い出も、たくさん。
ホワイトデーの日に、失恋をしたはずだったが、今改めて心を抉られた。
菜美は、こんな想いをしたんだと普段の瑞稀なら考えるだろうが、さすがに今の瑞稀に人のことを気にしていられる余裕なんて無かった。
想いを告げられずに終わった、自分の初恋。
涙を落とす目を、自分の左足に向ける。
そこにあるのは靴下に隠れた、薄くなったとは言え完全に消えることのない無数の切り傷。
拓斗に、残ればいいと言われてしまった傷・・。
あの卒業式の日から何度この傷を恨んだことか。いくら自分のせいとは言え、憎くて仕方がなかった。
この傷があったから、拓斗に嫌われてしまったんだろうか。
こんなケガがなければ、拓斗はずっと好きだった人と一緒に居られたんだろうか。
こんな傷がなかったら、私は・・拓斗を好きだということを知らずに居られたんだろうか。
どこで間違ってしまったんだろう。
初恋は、叶わない。
そんな恋愛小説に在り来たりな言葉が、瑞稀の心を支配した。
そして、想いを断ち切らせようとさせた。
「もう、良い・・」
「こんな風に・・・拓斗のこと考えて・・悲しくなって・・」
「どうせ、叶わないのに・・。」
「もう、知らない・・。」
「拓斗のこと・・忘れてやるっ・・!!」
悲痛な叫びが、裏庭に重く響いた。
そして、
「・・瑞稀・・・?」
瑞稀を迎えに来た恵梨の心にも、重く伸し掛った・・。