学習T-1
早朝目を覚ました葵は仙水の姿を見つけ、足取り軽く彼のもとへ駆け寄った。
「おはようございます葵様」
彼女の足音に気が付いた仙水は礼儀正しく向き直り葵へ清々しい微笑みをむける。
「おはよう、仙水」
仙水の手元をみると何も入っていない籠が握られていた。不思議におもった葵が首を傾げていると・・・
「森の恵みをいただきに行こうかと思いまして」
仙水は籠を持ち上げて葵に笑顔を向けた。最近風が冷たくなり、季節でいえば秋も間近に迫った頃だろう。北の国では秋も深まっているかもしれない。
「私も一緒に行ってもいい?」
「もちろんですよ」
それからふたりは民たちと変りない服装に着替え、人界へと降りて行った。
―――――・・・
仙水が選んだ森へ足を踏み入れると、熟した木の実やきのこが至る所で見つけることができた。
「葵様」
仙水に手招きされて葵が彼の傍により、彼の視線を追いかけると、野生のリスが木の実を両手にもっておいしそうに頬張っている愛くるしい姿があった。
「わぁ、可愛い・・・」
ふたりは微笑みながら小さな命を愛しげな眼差しで見つめていた。
それから葵は仙水に教えてもらいながら、果実や野草を自分の籠に入れていく。と、この時期にしては珍しく白い花が咲いているのを見つけた。
「仙水このお花の名前は?」
―――サクサクッ
地を踏む音が聞こえて、仙水だと思い振り返った葵の目の前には・・・
「あぁ、お嬢さんこれは玄草といって、お腹の調子を整える薬になる花なんだよ」
「・・・・」
目をぱちくりさせた葵は声の主の顔をじっと見つめた。長めの黒髪を紐で束ね、小さい眼鏡をかけており、手には古びた書物が握られている。年齢でいえば三十前くらいであろう男が膝に手をついて屈む(かがむ)ように葵の手元を覗き込んでいた。
「お嬢さんは薬草を採りに来たのかい?ひとりで?」
間近で目があって、男は葵に微笑みかける。笑うと優しそうな人柄がにじみでて、それを見た葵はほっと胸をなでおろす。
「森の恵みをいただきに、ひとりではありません」
立ちあがった葵は男の背後に仙水の姿を見つけた。