嫉妬U-1
耳元で九条の甘い吐息がかかる。
肩口に顎を乗せられ、九条と密着した背中から彼の体温が伝わってきた。
(九条・・・)
どうしてよいかわからず葵はまわされた九条の腕を優しくなでた。
「否定・・・しないのだな」
「そ、そういうわけでは・・・っ」
九条の腕が緩み、葵は彼の手によって向き合うように引き寄せられる。
「・・・唇の浄化を」
「・・・・っ」
美しい九条の切れ長瞳が冷たく葵を見つめている。その温度差に怯えた葵は彼の腕から逃れようと身じろぎした。
「・・・・」
だが、逃れることを許さないというように、九条の手に力がこもり・・・肩を抱かれ彼の顔が近づいた。
「・・・っ、何を!!」
必死に抵抗する葵を悲しげに見つめる彼は、つぅ・・・と指で葵の唇をなぞった。
「・・・お前は誰にも渡さない」
苦しげに歪んだ表情を見せた九条の手が離れると、彼は葵に背を向けて浴場を出て行った。
「九条・・・」
しょんぼりと眉を下げた葵は居た堪れない気持ちで胸がいっぱいだった。九条に触れられて彼の気持ちが痛いほど伝わってきてしまった。
(九条の気持ちが痛いほど流れ込んでくる・・・胸が苦しい・・・私は一体どうしたら・・・・)
自分の身を抱きしめて、葵は答えのない感情に悩まされていた。
――――――・・・
湯からあがり、中庭から空を見上げると満天の星空が広がっていた。思わずその美しさにため息をもらし、葵は祈りを捧げていた。
(たくさんの喜びが・・・幸せがこの世界に降り注ぎますように・・・)
滝のような光が葵を中心に広がり、夜風にのって大地を流れてゆく。
「・・・幸せって一体何・・・?」
葵はふと、自分の口から飛び出た言葉に驚きながらも・・・ずいぶんと"幸せとは何か?"について悩まされることとなる。
『・・・迷ったときは人界に降りてみるのもよかろう?』
世界の意志の言葉を聞きながら、葵は小さく頷いた。
「そうだね・・・」
(民から学ぶことはもっとたくさんある・・・)
いずれこの気持ちもわかる日がくると、葵は顔をあげた。