複雑な心境-1
「・・・・・」
なぜわかった?とはゼンは言わなかった。死の国の王は他人の"魂"を覗き見る力がある。ダークには言葉で説明するよりも魂を覗いたほうが鮮明にわかるのだという。
「俺の魂に何が見えた?」
興味ありげな目を向けているゼンはダークが含み笑いをしているのをみて、葵の存在が彼にも伝わったことを嬉しく思った。
「・・・美しい翼が見える・・・
艶やかなブラウンの髪に・・・清らかな青い瞳・・・・この輝きは・・・・・」
「人界の王だ、名を葵という」
目を細めて微笑むゼンの脳裏には優しく笑いかける少女のような葵と、凛とした強さを兼ね備えている王としての彼女の姿が浮かんでいる。
「これが人界の王か・・・」
ふっと笑うダークにゼンは、真面目な表情をつくった。
「人界の王ってのは俺達とだいぶ違う・・・その魂は輪廻だそうだ」
ピクっとダークの鎌を持つ手が動いた。
「・・・輪廻だと?」
「あぁ、なんでも王が死んで生まれ変わるまでの間・・・人界を支えるのが神官の役目だとか」
「神官・・・?」
「葵の傍には常に彼女を守る神官がいる、あいつらもまた永遠に等しい命があるらしい」
「・・・我らとだいぶ違う世界だな・・・見かたを変えれば・・・それだけ人界の王が危険にさらされる環境にあるということか?」
「なに?」
はっとしたようにゼンがダークを見つめた。ゼンはそこまで考えておらず、神官たちが存在していることを重要視していなかった。
「確かに・・・
葵が治めている国にしては下衆な輩が多いんだ」
「心当たりが?」
「あぁ・・・
葵はどうみても戦うような柄じゃないしな。悠久の王と力の属性が似ているんだ」
「身を守る術を知らぬのは・・・危険だな」
「・・・・・」
沈黙したゼンはただただ葵の身を案じていた。王が簡単に命を落とすことはないが、彼女の優しさが時に仇となるのではないかと不安と焦りが入り乱れる。
「人界の王の神具はなんだ?」
「葵の神具は杖だ。彼女の穏やかな気性にぴったりだったよ」
「本当に民のことに重点を置いた王なのだな・・・」
この世界の王の神具はすべて武器だ。