誘う兎-1
昼食明けの五限の授業前。
眠い時間帯に退屈極まりないと評判の国語の授業が始まった。
「あっ、教科書忘れちゃった。リクオ君、見せてくんないかなァ?」
ヨウコが俺の机に自分の机をくっつける。
先日の席替えで、俺は一番後ろの席を引き当てた。そして、その左隣の窓際の席にヨウコが座る。
ヨウコがどう思うかはわからないが、俺にとっては、最高の席替えだったと言える。
窓際に座るヨウコは、授業中はだいたい退屈そうに外を見ているか、眠そうにしているか、実際寝ているかだった。
生徒会長などやっている割に、授業態度は必ずしもいいとは言えない。
授業態度だけなら、まだ俺のほうがいくらかマシですらあった。
生徒会長なのにそんな調子なので、却って親近感を持たれ男女を問わず受けは良かった。
成績はまぁまぁ。真ん中くらいの俺よりはいい程度だ。ツキコは、成績は抜群に良い。
ヨウコや俺が平均以上をキープ出来ているのは、ツキコの貢献度合いが大きかった。
机に片肘をついたヨウコは、板書をする気もないのか、退屈そうにしている。
退屈そうな彼女は、黒板ではなく、俺の顔を何故か薄笑いを浮かべながら見ていた。
すると、自分のノートにおもむろに何かを描き始める。
俺が横目で彼女の描く奇妙なデザインを眺めていたが、次第にその全貌が明らかになるにつれて、俺は驚き、呆れた。
ヨウコの描いていたものは、男の勃起したアレである。
しかも、これはたぶん、先日彼女に見せることになった、俺のもののつもりなのだ。
全長何センチくらいとか、太さがどうだとか、色合いなどのコメントを書き、わざわざ陰影までつけて描写している。
結構上手く描いているが、才能の無駄遣いというしかない。
ヨウコは芸術のセンスはあるようで、時々地元の絵画展などに応募しているようだった。