ゼンV-1
不意に透き通った瞳を葵に向けられて、大和は顔をそらした。あたりを見回すとゼンの姿はない。
九条は聖剣を消してゆっくり葵に近づいた。
「葵・・・ここで何をしていた?」
驚いたように目を見開いた葵は・・・
「い、いえ・・・何も・・・っ!!」
逃げるように広間へ走り出した葵を見つめたまま二人は沈黙した。
「・・・・・」
待っていた蒼牙と仙水と共にデザートを口にし、早々に部屋へ戻ってしまった葵はベッドに体を投げた。
思い出すのはゼンの熱い唇に、誠実な眼差し・・・その唇からは思いもよらぬ愛の言葉が紡がれ、葵の体を熱くした。
(ゼン様の永遠の愛・・・私が民を思う気持ちと違うもの・・・誰かのためだけの愛・・・・)
葵が難しく考えていると、次第に眠気に襲われ・・・彼女が目を覚ましたのは夜中のことだった。
――――――・・・
雷の国の門が大きく開き、家臣たちが王の帰りを迎え出た。
「お帰りなさいませ、ゼン様」
「あぁ、いまもどった」
うやうやしく頭を下げられ、ゼンが頷く。
「死の国のダーク様がお待ちになっております」
「わかった」
長い通路の奥、光のもれる繊細な装飾の扉に力をかけると・・・巨大な鎌を手にしたグレーの長髪の女性とも男性とも見分けのつかぬ息を飲むほど美しい人物が椅子に座っていた。
扉の音に振り向いたその人物には並みならぬオーラが漂い、手に握られている巨大な鎌が、彼が冥界の王であることを証明している。
「おかえりゼン・・・
待ちくたびれてしまったよ」
そういう彼だが、疲れた様子は微塵も感じられない。この冥界の王ダークと、雷の王ゼンは親しく、ダークは以前、彼に三日も待たされたことがあるという。
「最近・・・
君がよく城をあけていると聞いてね・・・何かおもしろいものを見つけたのかなって・・・」
どかっと向かい側の席に腰を下ろしたゼンの表情はどことなく幸せそうだ。
「おもしろい・・・か、
俺にも大事にしたいものが見つかった、って言うのが本音だな」
「・・・ふぅん?」
ダークがゼンの魂を覗き込むと、微かに別の者である美しい翼が見える。
「永遠の愛を誓ったんだね?」