17-1
宣言通り、久野夫妻の家で曽根ちゃんの退院祝いをする事になった。約束の時間よりも早く曽根ちゃんを呼び出し、俺は百貨店の革製品店に彼女を連れて行った。
「いらっしゃい」
店員さんは俺の顔を見ると笑みをこぼした。俺も「こんちわ」と返答する。
「この子が例の、ネットショップの子です」
曽根ちゃんをそんな風に紹介したから、何も話を聞いていない曽根ちゃんは「何? 何の事?」と怪訝な顔をした。
「あぁ、ネットショップ拝見しました。うちでも多少、シルバーアクセサリーを販売してるんだけど、もし良かったら、うちにいくつか品物を置いてもらう代わりに、ネットショップで僕の商品を売ってもらえないかな」
怪訝気な顔は一気に上気し「まじすか」と興奮してるんだかしてないんだか分からない口調で店員をじっと見ている。
「君達二人、話し方が似てるねぇ」
店員さんは笑っている。俺も苦笑せざるを得ない。確かに似ているのだ。
「あの、ちなみにどういう品物なら置いてもらえますか?」
曽根ちゃんは少し興奮気味に問う。店員さんはレジ近くにあるパソコンのブックマークに入っていた曽根ちゃんのページを表示し、「こういう、和風モチーフの物を好むお客さんが何人かいるんでね、こういう感じのがいいかな」といくつかを示した。
ここから先は彼女のビジネスだと判断し、俺はその場から離れ、店の中をぐるりと見て回った。リングが入っているショーケースの中身は、以前と少し品揃えが変わっていて、一応品物は売れている事が分かる。客が入ってくるところは見た事がないが。
「じゃぁ、また来ます」
話が終わったらしい曽根ちゃんの声がしたので、俺は表側に回った。「終わった」と曽根ちゃんは俺に言う。
「じゃぁ、よろしくお願いします」
保護者のような口調だったが、それでも俺からお願いした事だから、言わずには済まなかった。
「いつ話をつけたの」
曽根ちゃんは幾分興奮気味らしいと判断できるぎりぎりのラインの口調で言う。
「曽根ちゃんが刺される前の日」
「先に相談してよ、驚くじゃん」
俺の腕をつん、と肘で押す。
「俺もこんなに順調に事が運ぶと思ってなくてさ。って別に曽根ちゃんの腕の良さは認めてるんだけどな」
「別に塁に認められなくてもいいし」
ツン発動。
「何はともあれ、芸術で食って行くのには、悪くなくない選択じゃん。うまくいくといいな」
俺は大袈裟に彼女の顔を覗き見ると、ぷいと顔を背けて「ありがと」と小さな声で言うのが聞こえた。
「聞こえないんだけど」
今度は彼女が大袈裟なぐらい俺の顔を見据えて「ありがとっつったの」と口を尖らせる。ふぅ、と溜め息を吐いた彼女がおかしくて、俺は笑いながら彼女の手を握った。
「ツンデレ。無気力」
今度は腕を捻られた。なかなか力が強い。