王の口付けV-1
「この世界は・・・次の王も私だから・・・」
「・・・どういうことだ?」
黙っていた九条が口を開いた。
「人界の王は後にも先にも葵しか存在しない・・・代わりなどいないということだ」
「なんだと・・・?」
わずかに眉間にしわを寄せ、葵を見つめるゼン。
『ゼン殿・・・
異世界の王と人界の王とでは・・・似て非なるものなのだ・・・』
「・・・・・」
ゼンの視線に耐えられず、葵は顔を背けてしまった。
「似て非なるもの・・・と言ったが、永遠の愛の誓いは同じなんだろう?」
『・・・同じだ』
「永遠の愛の誓い?」
きょとんとしている葵の腕をつかみ、ゼンは席を立つ。
「あ、あの・・・っゼン様?」
「話がある」
それっきり振り返らず葵の手を引いて中庭まで移動する。空には零れ落ちそうなほどの数の星々が瞬いていた。
立ち止まったゼンの傍らに立ち、葵が彼の言葉を待っていると・・・
「・・・王の口付けには重要な意味があるんだ」
振り返ったゼンは月の光に照らされ、とても美しい。宝玉のように透き通った瞳に整った顔立ち。戦人と言われるに相応しい鍛えられた体・・・
「永遠の愛を誓った相手に・・・その唇を重ねるんだ・・・」
近づいたゼンの右手の親指が葵の下唇をなぞる。驚く葵を熱い眼差しがとらえた。
優しくゼンに体を寄せられ、背中に壁、頭上にはゼンの左腕が葵の身動きを封じるように置かれている。
鼻と鼻が触れてしまいそうな距離にゼンの顔がある。
「王の愛の誓いは・・・一生に一度限りだ」
「一生に一度・・・」
「あぁ、・・・俺はお前の唇が欲しい」
「・・・・っ」
戸惑う葵にゼンはわずかに微笑んだ。
「お前が俺をそういう目で見てないのはわかってる・・・」
「だから・・・」
ゼンの目が細められたのと同時に・・・
小さく囁かれる。
「お前からの口付けは・・・いつまでも待つつもりだ。今は・・・俺の口付けを受け取って欲しい・・・・」
さらりとしたゼンの前髪が葵の頬をくすぐる。そして次の瞬間・・・
形の良いゼンの唇が葵の唇にゆっくりと重なった。