〈聖辱巡礼・其の四〉-3
{……よう。久しぶりだな}
聞きたくもなかった声……蛇のようにしつこく、恐怖の対象となっていた男の声に幹恵は少し後悔したが、今の状況を打破するにはこれしか無かった……溺れる者は藁をも掴むと言うが、今の幹恵もそんな心境なのだ。
「……和成さん久しぶりね……」
震える声で、幹恵は話し始めた……それは、和成と呼ばれる男への恐怖も混じっていた……太く低い声が、幹恵の鼓膜を振動させるたび、あの日の光景が鮮明に蘇ってくるからだ。
「急にごめんね……貴方しか頼れる人がいないから……」
男は昔に付き合った女性に、いつまでも未練を持つものだと幹恵は知っている。
あの日の和成の縋り付く様を思い出せば、まだ自分に未練があるだろうと幹恵は計算していた。
「貴方しか頼れない」
この甘言で、和成は味方を買って出るはずだと幹恵は思っている。
{……なんだよ、そんな頼られても困るんだよなあ?}
単純と言うか…和成は、まんまと幹恵の期待通りに甘言に乗り、馴れ馴れしい口調で通話を続けてきた……幹恵は脅迫を受け、金品まで脅し取られている事を泣きながら伝えた……勿論、自分の犯罪行為など棚に上げて……。
{分かった。〇〇駅の駐車場で待ってろ。俺が力になるからさ}
力強い答えに幹恵は久々に頬を緩ませ、顔や首などの悪戯書きを徐光液で消し、急いでシャワーを浴びてジャージを着て飛び出した。
何時また、あの男達が来るか分からないのだ。
髪も乾かぬうちに車に飛び乗り、アクセルを踏み付けた。