王の口付けT-1
ゼンの指が葵の唇から離れると、葵は首を傾げた。その様子をみたゼンは満足げに微笑む。
「・・・その反応はまだだな?」
「私の唇が・・・?どうかしましたか?」
葵の顔を覗きこむように顔を近づけるゼンの吐息がかかりそうな距離で葵は目を丸くしている。
「本当に知らないのか?・・・お前は王になってどれくらい経つ?」
「えっと・・・」
指折り数える葵のその年月は・・・数十年なのか数百年なのか・・・。
「よくわかりません」
葵らしい反応に九条は笑みをこぼし、ゼンは面食らったような顔のあとすぐに優しい笑顔を見せる。
「ほんと無欲だなお前はっ!!
気が付いたら千年王になってましたって言いそうだぜ!!」
ゼンと葵、九条の後ろを歩く村人たちは楽しそうな彼らの様子をみて微笑ましく見守る。雲の上の存在である王や神官がそこにいて、偉ぶるわけでもなく人々と歩みをともにしている。
「葵様とゼン様がご結婚されたら・・・この世界は今以上に素晴らしいものになるに違いないっ!!!」
彼らの姿を憧れの眼差しで見ていた村人の一人が歓声をあげた。
その声に振り向いた葵とゼンは互いに顔を見合わせた。そして、葵は村人へ声をかける。
「私は皆を愛していますよ」
女神のような微笑みを向けられ、一瞬・・・村人が静まりかえる。すぐに至る所から
「我が王は本当に素晴らしいっ!!」
「愛にあふれた美しいお方だ!!」
と、王の愛がすべての者たちに与えられている喜びを感じた人々は喜びに沸き、葵を取り囲んだ。
その傍らでゼンは葵を静かに見つめている。
「・・・・・」
自分と同じような目で葵を見ている漆黒の神官に気が付き、ゼンは言葉を発した。
「・・・彼女の愛は深く・・・広いものなのだな」
「・・・・・」
目だけをゼンに向けて、九条は語らず歩き出した。
数時間後、村へたどり着き・・・待っていた大和を迎えにいく。多くを告げられず、九条に留守番を頼まれた大和は不満げな様子だったが、葵の労いの言葉に笑みをみせた。
それから・・・たくさんの村人たちが再会の喜びに抱き合っている様子を見守り、葵たちは笑顔を向けてその場から立ち去った。