触れ合う心-1
暁林に斬られ、葵に傷を癒された家臣が目を覚まし・・・叫び声をあげる主の姿に驚き戸惑っている。
そして、今まさに立ち去ろうとしている葵とゼンによろめきながら走り寄った。
「どうか暁林様をお許しください・・・っ!!奪ったものは全てお返しします!!土地も金も宝石も・・・!!」
「・・・・命は・・・」
葵は悲しみを込めたまなざしで主人の許しを請う家臣に目を向けた。
「奪った命を返せますか・・・?
ここに囚われた者たちの時間を・・・返せるのですか?」
「そ、それは・・・」
うなだれるようにがっくりと肩を落とし、彼は目を伏せた。
「言っとくが・・・
あいつだけじゃない。この国の住人全員に伝えろ・・・同じようなことをすればそれなりの罰が下るとな・・・」
「・・・・っ」
振り向きざまに言い放つゼンの気迫に圧倒され、家臣は恐怖のあまり声が出せずにいた。
一度目を伏せた葵は家臣を見つめた。
「人は変れると信じています・・・いつかこの断罪の結界が不要になることを願っていますよ」
罪の意識を感じているのか彼は小さく頷いた。彼の手に優しく手を重ねた葵はゼンとともにその場を立ち去った。
館を出ると、入口には囚われの身だった村人たちが大勢詰め寄っていた。
「よし、帰るかっ!!」
わぁっと村人たちから歓声があがり、その先頭をゼンと葵が歩く。
門まで来ると、見慣れた姿があった。
「九条・・・」
(九条には確か・・・村を守るよう言っていたはず・・・)
葵との約束を破るようなことをしないはずの彼がそこにいた。すると、葵の言いたいことを見透かしたように九条が口を開いた。
「・・・あの村には大和がいる」
「ったく・・・お前のナイトは究極の過保護だな?」
葵に耳打ちするゼンを見て九条が眉間にしわを寄せた。
「王ともあろうお方が・・・自分の国に帰らなくてよろしいのですか?」
皮肉にも聞こえる九条の言葉にゼンは大きく笑った。
「それは気遣ってる言い方じゃねぇなっ!!」
ニヤリと笑ったゼンは葵の唇を指先でなぞった。
「な・・・葵・・・
お前のその唇はもう売約済みか?」
「・・・え?」