fainal2/2-8
「そんなバカな!」
予め、内角中心の攻めで右に打球が飛んだのなら、守備位置が右寄りなのも理解出来るが、右に左にヒット性の当たりを打たれた直後で、真ん中に飛んだ打球を掴まえられるのか。
偶然の産物だ!──省吾は不安な思考を切り捨てた。
一回が終わった。攻守交代で沖浜中の選手が、グランドから一塁ベンチに退いていく。
「予定通りだな」
突然、ピッチャーが独り言のように呟いた。
「ああ。あの調子で、早い回に潰してしまおう」
寄り添うように傍を歩くキャッチャーが、ピッチャーの言葉に相槌を打って薄ら笑いを浮かべた。
彼等の、いや、沖浜中はこの決勝戦に正攻法ではなく、搦め手のような狡猾さで挑んでいるようだ。
ニ回表。ネクストにいた達也は、控え選手の手を借りてプロテクターを身に着けている。この場合、控え捕手が投球練習の球を受けるのだが、
「間隔を空けて、呼吸を整えさせろ」
下加茂は、永井から指示を受けていた。
先ず、息が上がったままでは集中力を欠いてしまい、投球が儘ならない。
もうひとつは指先の感覚を戻すため。三度もボールを叩いたら、手袋をしていても指先に痺れが残ってしまう。
なるべく時間を稼いで痺れを解かねば、制球に支障をきたす可能性がある。
「直也、佳代!」
永井の指示は、他にも及んだ。
「ブルペンに行って、キャッチボールを始めてこい」
「ええッ!」
指示の内容に、二人が揃って声をあげた。まだ初回を終えたばかりだというのに、何を根拠にという疑念が涌いたのだ。
指示に対し、永井は「万が一の準備だ」とだけしか話そうとしない。
「とにかく、行くぞ!」
「う、うん」
頭の中は未消化だが指示は絶対だ。二人はすぐにブルペンへと向かった。
「どういうことかね?監督」
佳代は思いを廻らせる。意味するところは、省吾が打ち込まれた場合を想定しての対策だ。その辺りを直也に訊こうとするが、彼も「知らん」と言って、関わろうとしない。
「──ただ、言えるのは」
直也は代わりにこう言った。
「俺たちは、呼ばれた時に全力が出せるよう準備するだけだ」
そして、手にしたボールを佳代に向かって投げた。
ボールを捕った佳代。確かに言う通りなのだが、素直に利けない。
「えっらそうに!」
つい、悪態が口をつく。
「何だよ!悪いのか?」
「あんたの口から、そんな殊勝な言葉が出るなんて、何だか変だなァ」
「う、煩えな!黙って投げろよ」
「顔赤らめちゃって、可愛い」
掛け合い漫才のような罵り合いを繰り広げている二人に、何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。