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やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

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fainal2/2-7

(だったら、罠に乗ってやるか)

 省吾は、ほんのわずかスタンスをベースから離した。相手がバッター心理を解んで配球を組み立てるなら、そのバッテリー心理を利用して“こっちが願っている球”を投げさせる。
 罠を知ってか知らずか、キャッチャーは省吾を見てサインを出した。ピッチャーは頷き、力感の薄いフォームから四球目を投げた。

(来た!)

 一見、外角へのストレート。待ってました!──とばかりに省吾は打ちに出た。ステップした右足がベース側へ強く踏み出し、迫ってくるボールの下っ面目掛けて、思い切りバットをぶつけた。

 ──キンッ!

 左方向に引っ張るような打撃フォーム。省吾の掌に強い衝撃が残る。

「ああーッ!」

 打った瞬間、青葉中ベンチ全員が身を乗り出し、打球の行方を追った。
 レフト線への大飛球。沖浜中のレフトが、打球を追って懸命に下がる。

(……抜けろ!)

 省吾は一塁へと駆けながらヒットを願う。抜ければ二塁、いや三塁打は間違いない。後は四番の達也が、何とかしてくれると。
 失点を挽回して、是が非でも流れを有利にしたいという意識が、省吾に必要以上の疾りを強いていた。
 しかし、打球は無情にもレフトポールの左側に落ちた。

「カァーッ!惜しいッ」

 わずかの差だけに、ベンチの落胆ぶりは激しい。

「左の流し打ちは、打球が左に流れるからなァ」

 そんな中、一番落胆しているのは打った省吾本人だろう。ファールと判った時、彼はニ塁と一塁の中間を全力で疾っている最中だった。

「ハァハァ……また、ファール……かよ」

 省吾は荒い息で、ニ塁と三塁の間から打球の落ちた辺りをしばらく見つめた。ヒット二本、損した気分が拭えない。

「ほら、早く戻りなさい」
「あ、はい……」

 審判に打席に戻るよう促されて、省吾はようやく動いた。
 息はまだ荒いままだ。ファールとはいえ勝負球を仕留めたのは良かったが、次への思考がなかなか纏まらない。そうこうしてる間に、プレイが再開してしまった。

(もういい。来た球を打つまでだ!)

 五球目は外角低めへの真っ直ぐ。省吾は迷わず強振に出る。
 三度目の快音が鳴った。鋭い打球がピッチャーの左を抜けていく。

 今度こそヒットだ!──そう確信した省吾の顔が驚愕に変わった。打球が抜ける前に、ショートが回り込んでいたのだ。
 内野手は、配球によって守備体系が変化する。特にショートやセカンドは著しく、一球毎に変えることも屡々だ。


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