fainal2/2-11
「とりあえず、様子を見てみましょう」
「そ、そうですね」
しかし指揮官逹の心配を余所に、省吾は何事もなかったかのように後続を断った。
六番はセーフティーバントを試みてきたが、省吾の迅速な守備によって仕留めると、七番もファーストゴロに斬って捨てた。
「どうやら、立ち直ったみたいですね!」
葛城逹は、心配が杞憂だったことに安堵の色を示した。
「稲森くん、良かったわよ!」
初回の脆さが嘘のように、落ち着いたピッチングの省吾を葛城は笑顔で出迎える。
だが、当の本人は、あまり嬉しそうではなかった。
「……どうも」
永井と葛城に小さく頭を下げただけで、早々にベンチの奥へと引っ込んでしまった。
「なるほど。沖浜中というのは、なかなかえげつない作戦をやって来ますね」
攻守交代の中で、一哉がぽつりと言った。隣で観戦する榊は、それが何を意味するのか解らない。
「どうしてだ?」
「もうすぐ判りますが、省吾は潰されますよ」
「省吾が!?」
そう聞かされては理由が気になってしまう。
しかし、いくら根拠を訊いても、一哉はそれ以上は語らず「まあ見てて下さい」と告げて、グランドを見つめるばかりだ。その目には憐憫さが漂っている。
榊は、これ以上の追求を諦めて行く末を見守る事にした。
青葉中の攻撃は、四番の達也、五番の橋本淳、六番の加賀という好打順だ。
(ここは狙ってみるか)
青葉中が、決め球のカットボール狙いなのは沖浜中も知るところであり、当然、バッテリーも対策を考えている。達也は、ならば逆手にとって真っ直ぐを狙ってやろうと考えた。
ピッチングの基本はあくまで真っ直ぐだ。真っ直ぐを叩いて変化球を多投する方向に持ち込んで、配球を組み立てる幅を狭めてやろうと。
(おそらく初球に変化球。そして真っ直ぐだ……)
達也はキャッチャーとして配球を予想し、ペースからやや離れて立った。
四番バッターの活躍はチーム全体の覇気に影響する。だから打たせてはならない。特に達也のような長打に長けていれば尚更だ。
キャッチャーは、集めたデータやインスピレーションから要求を決めた。
サインは決まったが、頷いたピッチャーの表情は硬い。
右足をプレートの一端に乗せて、両手を胸の前で合わせるワインドアップの構え。
左足が上がり、左肩がホーム側へと向いた。
一瞬のタメの後、左腕が斜め前へと伸び、右足だけを残して身体全体が前へと移っていく。
左足が窪みを踏んだ瞬間、伸ばした左腕を一気に胸元へ引き寄せる力をきっかけに、上体を右に回転させて、右腕を振り出す──すべてが流れるように連動する動き。
右腕からボールが放たれる直前、右足がプレートを蹴り、さらに力を加えた。
初球は予想通り、外角への緩いスライダーだった。達也は左足を大きく踏み込むが、打つそぶりを見せずにあっさり見送った。
キャッチャーは、達也の反応具合から、狙い球が別にあると推察して配球の組み立てを修正する。