投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 559 やっぱすっきゃねん! 561 やっぱすっきゃねん!の最後へ

fainal2/2-10

「しまっていくぞォーッ!」

 達也の声が、グランドに散った仲間の闘争心を煽りたてる。
 ニ回の表、沖浜中の攻撃。達也に代わって投球練習を受けていた下加茂は、忠実に指示を実行した。
 おかげで省吾の息は大分整っている。がしかし、指先の痺れは未だ解消されてなかった。

 五番バッターは、左打席に入ると足場を固めだした。チーム随一の飛距離を誇ってはいるが、穴が多いというのが達也の評だ。

(外のカーブ)

 省吾が投球動作に入った。リリースの瞬間、手首を強く捻りつつ抜くように投じる。
 ボールはバッターの目線より高く浮き上がった。強い正回転が掛かったボールは、大きな弧を描いて落下し、膝元に構える達也のミットに収まった。
 主審がストライクを告げた。バッターは軌道の変化を見極めようと、じっくり凝視した。

(ニ球目はこれで)

 次は外角への真っ直ぐ。バッターは打ちにいったが敢えなく空振り。初球とのスピード差で完全に振り遅れている。

(小細工なしだ)

 遊び球はいらないと見た達也が要求したのは、外に逃げるスライダー。省吾は頷き、セットポジションに入った。
 グラブの中で握りを確かめ、投球動作に入る。ステップした右足が、プレートから六歩前の窪みを掴んだ。
 グラブをした右手を、斜め前方に突き出す。右肩の開きを抑えて、ボールのキレを上げる為だ。

「フンッ!」

 左腕がムチのようにしなる。ボールが指先を離れる瞬間、縫い目にかかる中指に力を込めて斬るように投じた。
 ボールは狙いより、やや内に入った。バッターはバットを強く振りにいった。
 ボールは滑るような変化で外へと逃げる。鈍い金属音と共に、力ないゴロが右方向に転がった。
 打球の方向を見た省吾は、マウンドを駆け降りて一塁へと走った。打球はファースト一ノ瀬へのゴロだが、自ら一塁を踏むには遠い。こういう場合、ピッチャーがベースカバーに入る。

「ヘイッ!」

 一ノ瀬に声をかけて自分の位置を報せる。ボールを投げるタイミングをはかる為だ。

「省吾ッ!」

 一ノ瀬が、捕ったボールを下投げから誰もいない一塁に放ると、駆け込んできた省吾が、飛んでくるボールを掴み取とって一塁を踏んだ。
 次の瞬間、打ったバッターが省吾の横を疾り抜けていった。

「アウト!」

 マウンドへと戻る省吾に、先頭バッターを仕留めた喜びはなかった。

(指の痺れで、投げる感覚が微妙にズレてる……)

 制球に不安を持つピッチャーは、概ね防御的な思考に陥り易い。そうなると、相手につけ入る隙を与えてしまう。
 省吾は不安を掻き消すように左手をニ度、三度と振った。

「指……どうかしたのでしょうか?」

 省吾の動作を見た途端、ベンチの葛城が表情を曇らせた。
 ピッチャーとは精密機械のようなもので、わずかな狂いが生じても制球に影響を及ぼしてしまう。


やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 559 やっぱすっきゃねん! 561 やっぱすっきゃねん!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前