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『法術士〜洋二郎〜』
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『法術士〜洋二郎〜』-2


 一度長屋に帰り噂を整理してみる。
 失踪した時の共通点は目撃者がない事、山で起きている事。何の手掛かりにもならないな、と溜息をつく。ならば自分の足で調べるか、と小刀を懐に入れる。「使わせて頂きます」
そう呟き洋二郎は夜の山へと向かった…
 桜も散り、梅雨も明け、陽射しが強く暑い夏になっていた。原因究明にと山に入り始めて三ヵ月、なんの進展もなかったが失踪も起きていないのが救いだった。夜になりこの日も日課になった山に入り少し進んだ時、先の方で啜り泣く声が…(娘?何故一人で?)
 様子を伺うが、やはり一人のようだ。夜の山中に、神隠しと噂のある時に
(妖魔か?いや、しかし…)洋二郎は警戒しながら娘に近付き声をかける。
「どうしました?」
娘は一瞬ビクっとしたが、私の顔を見て泣き叫びながら抱き着いてくる
「っ!恐かったんですぅ」私の胸で泣き叫ぶ娘を落ち着かせなから、ふっと気が抜ける。手の平には汗が滲んでいた。
(やはり私は未熟者かな。それとも臆病者かな)
自嘲気味に笑う。こんな事では本当に妖魔と出会っていたら私も失踪者かなと考えながら娘に声をかける
「今夜は私の所に来て下さい。明日、陽が昇ったら家まで送りますから」
娘は頷き手を握って一緒に長屋に戻った。明かりの中で娘を改めて見てみると、最初の印象と違い、娘と呼ぶのが失礼に思える程に綺麗な女性である。洋二郎は少し緊張していたのを隠しながら名前やら何故山にいたのか?などと質問した。 名前は咲耶、身寄りはなく、隣村で一人で暮らしている事。山菜を採っていたら知らず知らず山奥に入ってしまい、道に迷い暗くなり泣いていた所に私が現れた…という事だった(何故一人で山に?)隣村なら神隠しの事は知っているはず…だが聞いてはいけないような気がしたのだった…
 夜が明けて瞼をこする。ふと良い匂いが漂う
「おはようございます」
咲耶が声をかける。どうやら朝食を作ってくれているらしい。
「おはようございます。良い匂いがしますね」
「昨日の御礼です。味の保証はしませんが」
ふふっと微笑む咲耶…
その笑顔にドキっとする
(綺麗だ…)
洋二郎は沸き上がる感情を抑えるように言葉を発した「…では送りましょう」
咲耶は少し俯きなから
「出来ましたら少しの間でもここに置いて頂けませんか?」
願ってもない言葉。嬉しさが込み上げてくるが
「何故?」
一応聞いてみる。すると両親は亡くし家に帰っても独り…寂しさがいつも纏わり付き泣いてばかりいる家は悲しくなる…貴方といる今、私は久しぶりに笑えた。だから少しだけでも…悲しみを忘れる事ができる貴方と居たいと…答える咲耶を強く抱きしめる
「それならいつまででも」居てくれ。そう言う私を見つめる咲耶の顔は微笑んでいたが、少し寂し気にも見えた。
 咲耶と暮らし始めた頃は村人達、特に源さんには
「先生!女っ気がないと思ってたらいつの間にこんな別嬪さんを。い〜ね〜」
などと冷やかされたが悪い気はしなかった。変わった事といえば、失踪が起きなくなり、噂も無くなった事と、調査を打ち切りした事。お陰で以前のように診療のみをしている。咲耶が手伝うようになり、男の診療がやけに増えた…男ってなんか悲しいというか…一時の幸せな日々が続いた…
 季節は巡る。紅葉が散り、雪が溶け始めた頃から異変が起こりだす。夜中に咲耶が苦しそうに呻くようになったのだ
「咲耶!咲耶!」
ガクガクと咲耶の身体を揺する。
「洋二郎…大丈夫よ」
ハアハアと呼吸を乱しながら瞳をうっすらとあけて微笑む…こんな夜が続く…咲耶の生気は日に日に失われていく…法術や薬も使うが効果は見られない…そして、起きる事も出来なくなる咲耶…
「どうしたら…」
咲耶の手を握りながら力無く呟く…洋二郎の疲労もかなりきていた…


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