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『法術士〜洋二郎〜』
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『法術士〜洋二郎〜』-3


 数日経ったある日、
「洋二郎…聞いて欲しい事があるの…」
何日振りの言葉だろう…
私は咲耶に寄り添い
「なんだ?」
手を握りながら優しい口調で。しかし、彼女の口から信じられない言葉が…聞き間違いと思いたかった
「私を…殺して…」
何故?何を言っている?
「貴方に隠していた事があります…」
そう言いながら咲耶は身体を起こす。とめようとする洋二郎を制して。そして静かに…囁くように…
「私は人間(ひと)ではありません。妖魔です」
私は少し驚くが頭の何処かでは納得する自分に気付く。最初に出会ったあの日に感じた…夜中に山奥に一人でいた…その違和感が。しかし疑問があった
妖魔特有の“匂い”が何故しないのか? だからこそ、違和感を感じながらも確認はしなかった。
「それは、まだ目覚めていないから、人間(ヒト)を食べていないから。でも…」そこから先は言わなくても解った。これでも法術士のはしくれ…成体になってしまったのだ。その為に人間(ヒト)を食べてない咲耶は体調が崩れている。いわば栄養失調…生きる為に喰らわねばならなくなる…それを拒否する手段としての死を自ら望む咲耶…
「私は妖魔として生まれたけど…人間(ヒト)として…愛する貴方の手で死にたい…お願い…洋二郎…」
今は呼吸も落ち着いた咲耶が私の眼前に立っている。小刀を取る手が震える…鞘から抜く刀身が青白く光る。物悲しげに…
「二つ聞かせてくれ。まず、去年起きた失踪事件は」「あれは…私の母です。あの後、坂神修一郎と名乗る法術士、貴方の兄と私を逃がす為に闘い、今は何処かへ…死んだのかも…」
「ではもう一つ…」
私の瞳に涙が溢れ零れる…頬を伝う…それをじっと見つめる咲耶。
「私達の…私達の愛は…あの日々は…あの想いは…本物だった?」
声が震える…咲耶は何も言わずに…ただ頷く…
そして…優しく…決意に満ちた瞳でまた見つめる…
「貴方の…貴方の手で殺して。」
瞳を閉じ、言葉を紡ぐ…
「私の愛した貴方の手で、貴方の愛した人間(ヒト)としての咲耶でいられる今…」
私は頷き、小刀を愛する咲耶の胸に…刺し込む…
 小刀の持つ破邪の力により咲耶の身体が光り輝きその姿が透き通っていく。
 その愛おしい身体を強く…強く抱きしめる…

『ありがとう…愛する洋二郎…』

その言葉とともに咲耶の身体は消えた…

 それから数日後…
「どうも、今までお世話になりました」
源さんや惣治達に一瞥する「先生…いつでも帰ってこいよ。咲耶さんの眠るこの村に…」
「はい、行ってきます」

 咲耶…見守っていてくれ…
 私はもう一度法術の修業をする。人間(ヒト)と妖魔…両方を救える術(すべ)を見付ける為に…



『洋二郎…貴方なら必ず見付けれるわ。』
 空を見上げる洋二郎。
「ああっ。」
誰にともなく囁き、また歩き始める…


END


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