争いの影V-1
「奴等の口車に乗っちまったこの村の男どもが・・・あの国で奴隷のような扱いを受けて二度と戻れなくなっちまったんだよ!!」
「移民の者は差別を受ける・・・そんなやつらが合併して仲良く手を取り合うわけがない・・・」
「・・・・・」
葵は目の前の長の傷と、父親が殺された事に合点がいった。(彼らは断り続けて・・・それで命を狙われているんだわ・・・)
「奴等・・・長の父上を殺しただけじゃない・・・長まで狙ってやがる!!」
そんな中、九条は無表情のまま立ちあがった。
「葵・・・これは民の問題。我々が加担することではない」
「・・・・・」
葵は考えている。(王の役目とは?民を守り、この世界を安定させること・・・人々の問題は彼らで解決しなくてはいけない・・・)
九条の言葉に長は顔を上げた。
「その通りです。私たちの問題は私たちで解決しなくてはなりません。わざわざ気にかけてこうして来て下さっただけで・・・」
そういう長の言葉を聞きながら、隣国へと意識を飛ばす。この村とは比べものにならぬほどの人の多さ、そして武器・・・。強国に攻め入られては一溜りもないのは明らかだった。
「このままでは・・・貴方たちに勝ち目はありません。だからと言って、断れば戦になってしまう・・・」
「私がその国の様子を見て参ります。九条はここで皆を守ってください」
驚いた様子の九条は葵を止めようとしたが、葵には考えがあるようだ。
小声で九条が葵に意見する。
「まさか・・・この小さな村のために結界でも張るつもりか?王が肩をもったと言われかねないぞ」
「少し時間をください」
葵はそのまま建物を出て行った。翼を広げて山を越える。高い塀で囲まれたそこは、国全体が要塞かのように築かれていた。
(移民は奴隷のように扱われる・・・)
葵はその言葉を思い返して、隣村から来たと門番へ伝え中へ入る。
にやけた門番が数人、葵の背後をついてまわる。この国の頭が呼んでいると、葵は一際立派な屋敷へと案内される。
途中、うつむき加減のやつれた者たちが傍を通り過ぎた。衣服は汚れ、以前仙水が受けていた扱いを記憶に蘇らせた。
「むすめ、あの村から来たと言ったな?」