争いの影U-1
葵は民に扮した格好で農村に降り立った。
見渡す限り青々とした果実や畑が広がり、環境に問題がないことを確認する。
(風も穏やか・・・日の光も十分に行きわたっている。人は・・・)
子供達が元気に走り回り、それを見守る大人たちも笑顔にあふれている。
そんな民たちの様子をみて微笑む葵のもとに長槍が行く手を阻んだ。
「そこの女」
「・・・・」
立ち止まった葵は長槍をもつ男に向き直った。
「・・・何か御用ですか?」
相手の出方を伺っていると、男は槍を下ろして葵をまじまじと観察しはじめた。
「お前、この村の者ではないな?」
男の心の声が聞こえる。
(村人を装った奴等かもしれない・・・長に報告したほうがよいものか・・・?しかし、このように幼いおなごが・・・)
「やつら?」
考えていることを読まれてると悟った男は槍を構えた。
「貴様何者だっ!!」
葵の背後から砂利を踏む音が聞こえ・・・男が持つ槍が楊枝に見えてしまうほどに大きく光輝いた聖剣が男の喉元にあてられた。
見覚えのある剣に葵が振り向くと、九条の姿があった。
「王に刃を向けるとは・・・身の程知らずにも程がある」
「・・・ひっ!!ま、まさか・・・」
葵は九条に剣をおさめさせ、男へ指を立てて口を開くのを制止した。
「あなたは村の警護をしていたのですね?恐れているものは一体なんです?」
男は葵と九条を長の家へと案内した。長と呼ばれる男はとても若く、大和にも似た雰囲気を漂わせている。
「無礼をお許しください」
と深々と頭を下げられ、葵は首を振った。目を凝らしてみるとその者の手や顔には傷がある。九条と顔を見合わせ、すでに何かが起こっていることを感じとった。
長にしては若いと思っていたが先日、長だった父親を殺され、息子の彼がその座についたという。
「・・・山を隔てた佐夷という国が私たちの村と合併を希望しているんです」
「合併なんて口ばっかりだ!!
やつら俺達を奴隷代わりに働かせるつもりだ!!」
「・・・なぜそう思われる?」
九条が男へと視線を向けた。