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翼の記憶
【ファンタジー 恋愛小説】

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争いの影T-1

最近になって姿を見せないゼンを心配し、葵はひとり異世界への入口へと目を向けていた。






「雷のおっさん忙しいのかな・・・」






葵の傍らに蒼牙がのんびりと歩み寄ってくる。





「・・・ゼン様のいる世界はどんなところなんだろうね」





彼は戦人(いくさびと)だと言っていた。五大国、そして五人の王の地位が確立する前は争いのあった世界だと。彼の治める雷の国ではもうひとつの種族があり、実権を握ろうと今も企んでいると聞いた。






「いまは落ち着いてんじゃねぇのかな?あいつがしょっちゅうこっちに来れるくらいだしさ」





葵はゼンを心配する一方で、人界でも領土争いが各地で起きていることに心を痛めていた。





「争いは・・・永遠になくなることがないのでしょうか」





「人が増えれば・・・より良い環境を手に入れようと考えるのはいつの時代も避けて通れぬこと・・・」






背後から現れた九条はそういって目を閉じた。





「人の問題は人が解決せねばならない。被害者はそれらに興味のない一般の民たちだ」





そうなると葵は見捨てることが出来ない。善良な平和に過ごしたいと願う民たちを守らずにはいられないのだ。






「・・・ゼン様がいらっしゃったら教えて」






そういうと葵は翼を広げて飛び立とうとする。





「お、おい!!
どこいくんだよ!!」





慌ててついて行こうとする蒼牙が葵の手を引いた。





「争いを起こしてまで領地を広げようとする理由が知りたい・・・だからこの目で確かめたいと思います」






「お前が行くことねぇよ!!んなこと俺達だけで・・・」





優しく葵の手が蒼牙の手に重ねられると、あっというまに消えてしまった。






「ったく・・・しょうがねぇ王様だぜ・・・九条、俺は葵についていくから雷のおっさんが来たら必ず知らせてくれよ」






「葵の元には・・・私が行こう」






そういうと九条も一瞬の間に葵を追いかけていなくなってしまった。






「・・・ほんと人の話を聞かない奴らだぜ」






やれやれと大げさに肩を落として見せる蒼牙の元に仙水が現れた。





「葵様はご自分の身を守ることをしないお方ですから・・・九条は心配なのでしょう」





と、仙水が笑っている。






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