神官U-1
呼ばれた葵は二人の元へ駆け寄った。仙水は料理が得意だという。
『いくつか説明しなくてはいけないな』
お茶を用意している葵は神官たちの座るテラスへと足を向けた。
『・・・王と神官についてだ』
"世界の意志"は静かに告げた。
人界の王である葵の魂は輪廻で、肉体が滅びても何度でも王として生まれ変わること。
永遠に等しい命、そして即位したその日より年をとらなくなること。それは神官も同じであること。
「俺たちの魂は輪廻ではないのですか?一度死んだら・・・」
『・・・前例がない。
"人界の王"はこの世界の理だが・・・"神官"はその理の中に非ず』
『そなたらが死を迎えたのち、新たな神官が現れるのか・・・神官そのものがいなくなるのか・・・或いは・・・・』
葵は三人を見やって微笑んだ。
「私が貴方たちを死なせない」
その瞳には王たる者の強さが秘められていた。全てを守る立場にある人界の王。それ以上の決意が見てとれるのは気のせいだろうか・・・?
大和は葵の顔をじっと見つめていた。彼女と過去にどんな縁があったにせよ、自分は自分の意志で今ここにいる。
(死ぬのは怖くない、だが・・・
この方と・・・葵と離れるのは嫌だ)
テーブルに隠れた右手で葵の手を握った。
驚いた葵が大和を見つめる。大和は葵から目を逸らさず、その手に力を込めた。
「大和・・・」
「葵様、神官はもうひとりおられるのですか?」
仙水の穏やかな声が耳に届いた。はっとした葵は口を開く。
「・・・そう、きっとあと一人・・・」
『神官にふさわしい輝き・・・と、王との約束をもった者がいるな』
葵は蒼牙を思い出して遠くを見つめるような目をした。
仙水は陽気に微笑んでいるが、九条や大和は・・・複雑な心境だった。
それから、王や神官は食事も睡眠もあまり必要ないことを告げられた。その体は生身の人間とは違うことを実感したが、彼らは人間であった時間のほうが長いため・・・葵の計らいで食事や睡眠は今まで通りにとすすめられた。
料理が得意な仙水はさっそく炊事を担当することになり、葵とともに王宮へと入っていった。