約束V-1
(百の年も過ぎているなら・・・孤児院の子供だちも・・・大和の友人の泰史も・・・・)
人の儚い命は葵にとって一瞬の輝きだった。つい先日のことだと思っていたことが人の一生分にも値する。
広間には葵の光が満ちていた。すっかり馴染んでいた斉条や蒼牙、偉琉の姿はここにはない。
時間の流れにただ一人取り残されたように感じ、葵は眉を下げた。
庭に出てみると人界とは切り離されたように美しいままの王宮が白く輝いている。清らかな水が流れ、葵は感情なくそれを見つめた。
それからの葵と王宮は地上へ戻ることなく上空へとどまっていた。ただひたすらに彼らを待ち続け・・・人界の修復に力を注いでいく。徐々に活気を見せはじめた世界にはたくさんの命が生まれ、人々の顔には笑顔が満ちていた。
葵は時折、人界へと意識を飛ばし・・・彼らの気配を探していた。
似た気配があり、葵が押さえきれない衝動を抱えて意識を集中すると・・・彼らの遠い親戚なのか別人であることが何度かあった。
それでも・・・彼らの血筋が絶えることなく続いているのを感じて、葵の目からは涙がこぼれた。
――――・・・さらに数十年。
もうどれくらいの年月が経過しているのかわからない。変わりのない昼と夜を繰り返し、会話する相手といえば"世界の意志"だけだった。
人々の世界は潤い、海を渡った交易なども盛んに行われている。季節により雷鳴が轟くのはどうしようもなく、ただ大事に至らぬよう葵は人々を守っていた。
知恵のある人間たちは思想や言語が発達し、様々なものを創りあげていった。
その時、ひとつの"神"の存在を創りだし・・・【雷】を象徴とした"雷神"が崇められるようになった。
"神"は"王"と並び人々に深く信仰され、雷をイメージした雷神の姿は猛々しく力強いものとして人々の間で広く知れ渡っていった。
『民の中ではなかなか面白い神が創りあげられているようだな』
「ええ、雷神様とか・・・。
私も是非お会いしてみたいです」
『・・・会ってみたいか?』
「はい、この宇宙はとても広い・・・この世界じゃなくても・・・きっとどこかに・・・・」
『・・・そなたの許した"存在"ならば・・・いつか会えるかもしれぬ』