約束U-1
あたりに一面に光が満ちて皆の顔が見えなくなった。
悪夢から解放されるように葵の意識は現実世界へ引き戻された。
王宮の外では雷鳴が轟き、空はぶ厚い雲に覆われている。
『・・・目覚めたか・・・』
"世界の意志"の声がして、はっとした葵が体に目を向けると一糸まとわぬ姿で眠っていたことに気が付く。
「・・・わたし・・・」
『・・・どこまで覚えている』
物悲しげにうつむく葵は、あの日意識を失う直前のこと、そして彼らはもうこの世にはいないであろうことを口にした。
『・・・その通りだ』
きゅっと膝の上で拳を握りしめる。目頭が熱くなり、嫌な現実と向き合わなくてはいけない辛さに胸が押しつぶされそうだ。
『・・・あの瞬間我はそなたを護り、王宮へと連れてきた・・・大義であったな』
「私は・・・大事な人たちを守れなかった」
葵はもう彼らを民とは呼ばない。彼女の中でその存在は忘れられぬ者へと変化し、今もこうしてその姿を待ち続けている。
『・・・そなたがこの世界の王である限り、守る者たちは永遠に存在している・・・』
「・・・はい」
『・・・その悲しみを乗り越えて強き王となれ』
「もう・・・誰の命も消えてしまわぬように」
『立ちあがれ・・・葵』
葵が静かに腰をあげると、美しく輝く翼が光を放った。傍にある杖をかかげ・・・王の力を解放する。
葵の力は天を昇り雲を消し去る。そして痩せた大地を潤し、海をなだめた。暗く、俯いていた人々の顔はあたたかな光に誘われ空を仰ぐ。
その空には美しい虹と、王の復活を表す金色の光があたりに満ちていた。
人界の至る所で災害が起きており、葵は胸を痛めた。(また前のように逆戻りさせてしまった・・・)
『そなたが眠り続けて・・・あれから百の年が明けた・・・ほころびもあろう』
(百の年も・・・)
懸命に生きている人界の民を思い、葵は申し訳ない気持ちでいっぱいになり眉を下げた。