愛撫-2
魔術師をあやかしだと述べる者もいる。
全ての魔術師はその力を公然でみだりに晒すことを禁じられており、尚且つ力も未熟な年半ばにして献上されてしまうため、一般庶民がそれを目にすることはないに等しかった。
戦力の拡散を防ぎ管理し、敵国への威嚇の意を唱え、――全ては国の支配の下で黙秘されてきた歴史の一つである。
「俺は普通に生まれて畑仕事でもしてさ、日がな一日過ごしたりしたかったんだけどね」
金糸の繊細な刺繍を施された黒いローブを纏い、青年は柔らかい口調で言葉を紡いだ。
庶民出のこの青年もまた力を持ち14の歳から公邸に遣えている。
「生憎、俺には魔術の才能がなくてね」
あっけらかんと言う青年に、目の前の少女は皮肉を込めた舌打ちをした。
「じゃあどうしてローブをしているわけ?それは魔術師の証じゃないか」
「よく知ってるね。俺の力は戦闘向きじゃないのさ。御国や貴族サマのお役には立てないんだ、これが」
「貴族サマのお役には立ってるんじゃないのか?」
「ああ、そうか。そうだったね」
そう言って青年はローブの中から小さな瓶を取り出す。
「じゃあ始めようか」
少女の座るソファーに歩み寄り、それを静かに傾けた。
「はじめまして。俺はアズール。今日から君の担当になった魔術師だよ」