及ばぬ力T-1
次第に近づく惑星の力に圧倒され、大地が震えている。そして・・・見守り肩を寄せ合う人々には不安が押し寄せていた。
(空間転送の魔法陣でうまく移動させれば・・・)
惑星の軌道を修正する力など葵にあるはずがない。だからといって、同じ宇宙に生きる星を手にかけることも出来ない。
「近づく惑星の大きさがどのくらいかわからないけど・・・やるしかない」
独り言のように呟いて覚悟を決めると、葵は杖を力強く握りしめた。
激しい衝撃とともに惑星が大きく人界へと近づいた。徐々に大きさが把握でき、葵は愕然とした。
人界の半分ほどが惑星の影にはいる。この青い星と同じくらい・・・それだけではなかった。他にもいくつもの小さな星々が衛星となり、その惑星を取り囲んでいる。
「・・・・くっ!!!」
予想していなかった出来事に葵は唇をかみしめた。両手で杖を持ち直し、湧き上がる力を一点集中する。
「・・・葵様・・・・」
地上から厚い雲に覆われた上空を不安げに眺めるのは斉条だった。
暗さを増した地上では、昼の時刻のはずなのに真夜中のような暗黒が広がっている。唯一輝くのは降り注ぐ葵の光だけだった。
(この地響き・・・まるでこの世界全体が振動しているようだ)
胸元にいれた葵の宝珠を取り出すと、美しく光輝いている。
(唯一これが彼女と私をつなぐもの・・・)
不安はぬぐえぬものの、宝珠のひかりは葵のように優しかった。
その時、馬の蹄の音が響き見覚えのある姿があらわれ・・・斉条の瞳は温度を下げた。
「葵様は・・・っ!!
葵様はおられませんかっ!!」
髪を振り乱し馬から飛び降りた大和と呼ばれる青年は真っ直ぐに斉条の元へと駆けてきた。
「・・・・」
鋭い眼差しを向ける斉条にもひるまず、大和は続けた。
「教えてくれっ!!
彼女は今どこにいる!!」
斉条に詰め寄る大和の背後から穏やかな声がした。
「・・・あなたも葵様のお知り合いの方ですか?」
物腰の柔らかい仙水は心配そうに大和に目を向け佇んでいた。