孤独な戦いV-1
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(地上から力が届かぬ距離ならば・・・こちらが近づけばいいんだわ)
王宮を包む結界でも雲よりも遥か上、大気圏といわれる宇宙とこの星の狭間までが今の葵の限界だった。
眼下には美しく青い人界が見える。葵は優しく目を細めると・・・杖をかざし人界全体の安定をはかるため己の力を解放した。
次々に湧き上がる力を惜しげもなく放出し、葵の慈悲の光が星を包んでいった。
上空から降り注ぐ優しい光に顔をあげた青年がいた。
「・・・・これは・・・・葵様の光・・・・・」
大和と呼ばれる青年はおさまってゆく風の強さに違和感を感じたが、その光を目にして更なる違和感を覚えた。
何度か目にしている彼女の力は一瞬の間に広がり、徐々に光が消えていくはずなのだが・・・途切れることなく降り続いているからだ。
「まさか・・・葵様のお力が作用しなければ・・・この状態を保っていられぬ、ということか・・・?」
大和は拳を握りしめ、葵の身を強く案じていた。(葵様の傍にいたあの・・・斉条という方なら、何かわかるかもしれない)
大和はすぐに馬にまたがり、おおよそ王宮があったであろう場所を目指して馬を走らせた。
――――――・・・・
数日後、葵が待機する王宮の中庭では杖を片手に・・・さらに上空を見上げる葵の姿があった。
地上から離れてからというもの、葵は一睡もせず近づく災厄に備えていた。人界を包む彼女の力には一寸の乱れもなく、疲れも感じさせない。
"人界の王"はまだ見ぬ"異世界の王"とは異なり、過酷な運命が待ち受けている。それに耐えうる心と体、力を与えられ・・・時には己を犠牲にして世界を守らなくてはいけない。
そして・・・
例え肉体が滅んでも、彼女に終わりはない。永遠の安息もなく、魂は輪廻のごとく人界の王として葵を蘇らせる。
初代にして永遠の人界の王・葵は・・・間もなく、最初の苦難に立ち向かうこととなる。