孤独な戦いU-1
微笑む葵に握られた手や言葉があたたかく、仙水の目頭を熱くした。
「葵・・・さ、ま・・・・ありがとうございます・・・・」
頬に触れる風が一層強くなり、眉間にしわを寄せた葵は握りしめていた仙水の手を解いた。
「仙水、私はこれからやらなくてはいけないことがあります。孤児院の創りは丈夫なので貴方もしばらくの間ここに留まっていてはくれませんか?」
提案というより、半ば強制とも思われる物言いに仙水は斉条やまわりの者へと目を向けた。皆、目に涙をためていたり彼女を心配するような眼差しをむけている。
「・・・最近天気がよくない事と、何か関係があるのですか?」
「・・・詳しくは斉条から聞いてください。そろそろ行かなくては・・・・」
真っ黒な雲が空を支配し、微かに雷の音が遠くに聞こえはじめた。
最後にそっと蒼牙の頭をなでると、斉条へと向き直った葵は言葉を発した。
「斉条・・・あとを頼みます。どうか貴方も無事でいてください」
「・・・わかりました。
・・・一刻も早い葵様の帰りをお待ちしております・・・・」
葵は静かに頷いて・・・頭上に手をかかげまばゆい光と共に、王の杖を呼び寄せた。
杖に施された小さな宝珠をひとつ外すと、斉条に手渡した。
「お守り代わりに持っていてください。万が一の時のために・・・・」
「・・・万が一などあるわけが・・・」
泣き笑いのように斉条の表情が崩れる。その顔をみた葵の顔が一瞬寂しそうに影を落とした。
葵の手が斉条から離れるとドレスを翻した葵の背には神々しい翼が出現し、身を纏っていたドレスは王の正装へと変化した。満ち溢れる慈悲の力に彼らは目を細めながらも、たった一人戦いに赴く幼い少女の姿をその目に焼き付けた。
「皆・・・どうか無事で」
振り返らず翼を広げた葵は王宮へと消え、上昇した王宮はあっという間にその大きな建物ごと空間転送してしまった。
「葵様・・・一体何が・・・・」
消えた王宮の影を求めるように空を見つめる仙水は言い知れぬ不安に襲われていた。