孤独な戦いT-1
翌朝、王宮から孤児院が切り離され・・・尽力してくれていた斉条の友人たちへ、そして子供達・・・蒼牙や偉琉にしばしの別れを告げ葵は背を向けようとした。
その時、葵の手を小さな蒼牙の手が握りしめた。視線を下げると、蒼牙は涙を浮かべて葵を引き留めようと必死な眼差しをむけていた。
「蒼牙・・・・」
葵はしゃがみ蒼牙と目線を合わせた。
「蒼牙・・・少しの間さよならだけど元気でね」
諭すような優しさで蒼牙をなだめるが、それでも蒼牙は首を横に振って葵との別れを嫌がった。
その時・・・
「・・・葵様?どこかへ行かれるのですか?」
ゆったりとした穏やかな声が葵へと向けられた。振り返った先には水色の美しい髪と瞳をもつ、数年前この場所で出会い、別れた水蓮の姿があった。
「水蓮・・・っ!!」
葵は懐かしいその青年の元気な姿をみて安心したが、再会を喜んでいる暇はなかった。
いままさに別れの最中に飛び込んできた水蓮は訝しげに周りを見渡した。
「これは一体・・・・」
首を傾げる水蓮を鋭い視線が突き刺さる。
「葵様に何用だ」
斉条は葵と水蓮の間に立つと冷たく言い切った。
「斉条、彼は水蓮と言います。私の知り合いです」
「・・・・・」
斉条の背から心配そうな葵の声が聞こえ、斉条は無言のまま身をひいた。
「水蓮、私を訪ねてきてくださったのですか?」
「はいっ!!葵様にちゃんとお礼が言いたくて・・・助けていただいたのに顔も見せず申し訳ありませんでした・・・あと水蓮という名は・・・・」
不思議そうに彼の次の言葉を待つ葵の耳に、口ごもる水蓮の心の声が葵の耳に届いた。
(私の本当の名は・・・)
「仙水・・・あなたの本当の名前は仙水というのですね」
なぜ偽名を使ったのか問いただされることも覚悟していた仙水は目を見開いている。
「はい・・・"仙"の字を使うことはドイル様がお許しにならなかったんです・・・なので代わりの名を・・・・」
寂しそうに俯く仙水の手を葵は握りしめた。
「もう怯えることはないのです。ご両親から頂いたその素敵な名に誇りに思ってください」