守るべき者-1
悲しそうな目で必死に訴える斉条に葵は断固として頷かなかった。
「この力がどこまで及ぶかわからない以上・・・私が倒れるようなことがあったら傍にいる貴方が危ないのです」
たった一人で戦いへ挑もうとしている葵の力にもなれず、ただ邪魔にならないよう離れることしか出来ない自分に腹が立ち、斉条はつよく唇をかみしめた。
その様子に気が付いた葵は・・・
「いけません斉条・・・己の体を傷つけるなど・・・」
優しさのあふれた葵の指先が血のにじむ斉条の唇に伸ばされる。近づく葵の気配に斉条は・・・
「・・・っっ」
力強い斉条の腕に抱きしめられ、葵は驚きに目を丸くして動きをとめていた。
「・・・・さい・・・じょう・・・?」
「葵様・・・私の心配などいらないのです・・・どんな時でも貴方の傍にいることが私の望みだ」
より一層強く抱きしめられ、葵は息苦しさとともに斉条の心の痛みに気付くこととなる。
「ありがとう斉条・・・貴方は私が守るべきこの世界の民・・・私と運命をともにすることはありません。例え私が倒れても・・・必ず世界は救ってみせます」
そう言って葵は斉条の手から離れた。彼女の瞳には悲しみの色も寂しさの色もなく、力強い王の意志を秘めていた。
彼女の決断は揺るぎなく、決して斉条の望みを叶えてくれることはないだろう。斉条の抱いている愛と、葵のもつ愛は全く別物だからだ。
「・・・ならば・・・
もう一度、葵様に会うことが出来たらその時は・・・」
斉条が最後まで言葉を発する前に、葵は静かに頷いた。
「今まで私のわがままに付き合わせてしまったのですから・・・次は私が貴方の願いを叶える番ですね」
葵の言葉に嘘はなかった。彼女が王となってから初めて頼った人間の身である斉条。東条の孫で、誰よりも葵を信じ傍にいたいと願った一人の青年。
微笑む葵の背後でより強くなる嵐の気配に斉条は眉をひそめた。