叶わぬ初恋2-1
斉条は皮肉な笑いを浮かべて目を閉じた。何か言いたそうな、戸惑いの色を見せる葵の瞳は彼らを交互に見やっている。
「王の命がどれくらいのものか・・・わかって言っているのか?」
「あ?王様だって人間だろ?それがなんの・・・」
泰史が言い終わる前に斉条の目が冷たく彼を射抜いた。
「私の祖父は・・・成人して間もない頃、葵様に助けていただいたことがある。その祖父も天寿をまっとうし・・・もうこの世にはいないのだ。どういう意味かわかるな?」
驚いた大和と泰史は葵の姿を再確認するように凝視した。肌は透き通るように白く、髪も美しく艶やかな・・・どう見ても年齢にして十五〜六の幼い少女だ。
「嘘だろ・・・」
「・・・私は・・・
斉条のことも、大和のことも・・・泰史さんのことも、そしてこの世界の全ての命を愛しています」
その慈愛に満ちた葵の眼差しは・・・どこか寂しげで、人を寄せ付けない何かがあった。
「・・・っそれでも・・・俺は・・・・っ!!」
大和が葵へ切実な眼差しで訴えかける。彼女の細い腕をつかみ、身を乗り出すと・・・泰史の大きな手が大和の肩を抑えた。
振り返ると泰史が首を横に振っている。
「よせ・・・大和。
お前の気持ちはわかるが、世界が違いすぎる・・・お前と王様とじゃ・・・どうあがいても・・・・」
うなだれる大和を見て葵の胸は痛んだ。
「大和・・・、これからも変わりなく接してくださいませんか?」
優しく手を差し伸べる葵のしぐさには、個人的な感情を良しとしない、友人としての対応を求める行為にみえた。
「・・・葵様がそれを望むとしても俺は・・・」
胸を締め付ける痛みに大和は顔をあげることが出来なかった。と、同時に葵の背後にたつ斉条も同じ痛みを感じていた・・・。
(私とて同じ・・・
おじいさま・・・あなたと私の違いはここにあるのでしょうか・・・・)
思い出す東条のあたたかい眼差しは葵を敬愛してやまない、また別のものだった。