夜半の月-4
交友関係は男女を問わず、それなりにあった。
ただ男性の方は、恋愛の対象というよりは、友人としての色彩が濃いものだった。
結婚は一度しているが、夫とは既に死別している。
父ほどの歳の差が離れた夫で、平凡だが優しい役人の男だった。
穏やかで落ち着いた生活は三年ほど続いたが、その生活も夫が流行り病で他界して終えることになった。当時はひどく落胆したものだったが、今思えば夫との関係というのは男女というよりは、親子の関係に近かった気がする。
要するに、わたしは濃厚な男女関係というものには恵まれずにここまで来ているのだ。
だから、紫の上に自分を投影して、彼女に恋愛をさせていた。
それでいくらか気が晴れて、しかも周囲からは喜んでもらえている。
それでいいと思っていたが、道長が現れたのだ。
「ふむ。相変わらず、式部の物語は面白いな。もう読み終えてしまったぞ」
「申し訳ありません、話の筋が思い浮かばなくて、あまり書けませんでした」
「よいのだ。そういうことも、あるだろう。……もしかして、俺のせいか?」
道長は巻紙から顔を上げて、わたしをちらりと見やる。
わたしは思わず顔を伏せたが、道長はその鷹のような目でわたしの心の中を覗いている。
ひと月ほど前に、やはり今日と同じように、道長がこの部屋を訪れた。
わたしは書き置いていた巻紙を道長に差し出し、道長がそれを読み終えると一言言った。
今宵は俺の夜伽の相手をせよ。
わたしは自分の耳を疑った。冗談にも程があるだろうと思ったが、道長は本気だった。
あまりに突然だったし、道長は権力者である。抱く女なんて、他にいくらでもいるのだ。
何故わたしなのか。聞こうと思ったが、聞ききれなかった。