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夜半の月
【歴史物 官能小説】

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夜半の月-3

「ここに立ち寄って一服するのが、俺の数少ない楽しみの一つでな?」
「わたしは、何もお構いできませんが」
「フフ、俺が勝手に構っているか。まあいい、それより物語の続きは出来ておるか?」
「はぁ……少しは進んでおりますが」
「よい。見せてみよ」

 わたしはおずおずと書き溜めてあった巻紙を道長に渡した。
 渡した巻紙の量が、いつもより少ない事には、道長は何も言わない。
 ただ、わたしの顔をちらりと見て、少し笑ったような気がした。
 そしてそのまま、床に巻紙を広げて、道長は物語を読み始めた。

 わたしの書くこの物語は、京ではかなり好評らしい。
 最初は男からは女子供の読み物だと笑われたが、徐々に評価は高まり、やがて話の筋を知らないと風流のわからん奴だ、などと知らない男の方が馬鹿にされる程になった。
 そんなわたしの作品の一番の理解者は、奇しくもこの道長だったのかもしれない。
 道長もまた、文芸を愛し、自らも歌集を手がけるような男だった。
 今でもわたしに原稿を催促し、いの一番に読みに来る。
 何事も一番でないと気が済まないのだろう。
 子供と大人、光と影が同居しているような、そんな性格をしている。

「式部よ、この紫の上というのは、お前のことか?」
「……そんなことは」

 紫の上は、主人公光源氏の妻の一人だ。
 容姿端麗で、性格も申し分なく、読者からの人気もある登場人物だった。
 道長が、わたしを見て意地の悪い笑みを見せている。
 お前は、自分自身を物語の中心人物に据えて悦に入っているのか。
 そんな事を道長は言いたいに違いなかった。

「光源氏のような男と暮らせたら、女はさぞ気分が良かろうな」
「それは……そういう主人公ですので」
「だが、光源氏と式部は、あまり合うまい」
「……そうなのでしょうか?」
「今まで、俺はいろんな男を見てきた。その光源氏のような男もな。だが式部とは長くは持たぬと思うよ。口では上手く説明出来んのだがな」

 わたしは内心ドキリとしていた。
 紫の上は源氏の浮気に心を痛め、最終的には体も病んでしまうという構想があったのだ。
 彼女は完璧な女性であるかのように見え、嫉妬深く神経質な所がある。
 その欠点は、もしかするとわたしに似ているかもしれない。

 紫の上には、確かに自分を投影している。
 それは、わたしだけが知っている事だ。
 紫の上ほど、わたしは容姿端麗な訳では無いが、話の中くらいは少しは自分が楽しんでもいいではないか。


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