嫉妬2-1
優しく微笑む葵の傍らにたたずむ、斉条と呼ばれた男は大和を冷たい視線で見下ろしていた。
「葵様のお手をわずらわせることではありません。お心残りがあるのならば私が参ります」
「斉条・・・?」
いつもは優しい斉条の、トゲのある言葉に葵は首を傾げた。
「葵様、気持ちはわかりますが・・・主が王宮を離れるのは感心しません・・・貴方なら王宮からでもそれが可能なはずです」
半ば、怒られたような気分で葵はしょんぼりと肩を落とした。
それまで黙っていた大和が口を開いた。
「俺は・・・
俺は・・・っ、明日も貴方に会いたいっ!!」
廊下にいる彼の友人も「よく言った!!」とばかりにこぶしを握り締めて満面の笑みを浮かべている。
「・・・っ、大和・・・」
ぱっと顔をあげた葵は、嬉しそうに大和へ笑顔を向けた。
すると、苛立ったように斉条は無言で葵の手をひき歩き出した。
「葵さま・・・っ!!」
伸ばした手が宙を掴み、寂しそうに振り返る葵の顔が視界から消えてゆく。
表に繋いであった黒馬へ葵を乗せると・・・斉条は大和のいる部屋を見上げ、瞳の温度を下げた。
心配そうに葵も顔をあげて部屋を見つめると、大和と彼の友人が顔をのぞかせた。
笑って葵が手を振ると、彼らも優しく微笑み手を振り返してくれる。
「・・・・・」
無言のまま斉条が葵の背後へ飛び乗ると、大和たちは見えなくなってしまった。
「・・・行きましょう」
「はい・・・」
斉条は手綱をひき、馬を走らせた。王宮へたどり着くあいだ二人に会話はなく・・・、斉条を見上げても彼は視線を動かすことなく前方だけを見ていた。
(あの男・・・大和といったな・・・葵様に口付けをしようとしていた)
思い出すだけで沸々と湧き上がる苛立ちが隠せず、斉条は強く手綱を握りしめた。