惜しげもなく揺れる乳房-1
目覚ましが鳴らないうちに目が覚めるのはいつものことだった。昨夜は崇男がベッドに入ってきたことに気付かなかった。疑似ペニスは膣から抜け落ち、太腿辺りに転がっていた。全裸で布団に潜り込んでいた美菜子に触れることもなく、夫は寝てしまったのだろう。それもいつものことだ。
崇男の寝息を聞きながら美菜子はベッドを抜け出し、裸のまま、ベタベタする疑似ペニスを洗いに行く。
―ザァーッ
水道のコックに手を伸ばすと、薄い壁の向こうから水を流す音が聞こえてきた。
(鬼頭さん、おはよう・・・昨夜は、気持ち良かったわ・・・)
“案外、早起きなのね”と思いながら、何もない壁にチュッと唇を付ける。
「んふっ・・・」
美菜子は鼻唄を歌いながら、疑似ペニスを馴れた手付きで扱くように洗い、ベッドルームに戻る。まだ薄暗い部屋の中で着替えを済ませて朝の支度に掛かった。
「おはよう」
新聞を開く音に振り返ると、崇男がテーブルに就いていた。美菜子は返事がないことを気にも留めず、マグカップに注いだコーヒーを差し出す。
「・・・隣、越してきたのか」
「えっ?ええ・・・昨日、鬼頭さんって言われる男の方が挨拶にいらしたわ」
美菜子は手を止めて、テーブルの向こうに立ち塞がる新聞をじっと見る。新聞はしばらくしてから派手に動き、畳まれてテーブルに置かれる。
「なんか話し声が聞こえたが・・・まあ、騒がしい女よりはマシ、か・・・」
夫はそれだけ言うと、用意されたスープとトーストを頬張り、忙しなく口を動かしながら椅子から立ち上がってコーヒーで食べ物を流し込んだ。“胃が凭れるから”崇男は朝食にごはんを食べない。さっさと洗面所に行ってしまった。
夫が流す水の音と隣人の生活音が入り交じって聞こえてくる。美菜子は片付けながら纏めたゴミをキッチンの角に置くと、ベッドルームの鏡の前に急いだ。美容液を塗り、さっと髪を解かして薄付きのリップクリームを唇に塗る。ゴミ捨てだけならこれで十分だ。背広やYシャツをリビングに用意していると、夫が戻ってきて着替え始める。その視線は鞄を持つまでテレビから離れることはほとんどない。黙々と支度を済ませた崇夫が玄関でちらっと鏡を見てネクタイの曲がりを直すと、靴を履いてドアを開ける。美菜子も急いでサボを引っ掻ける。
「いってらっしゃい」
閉まり掛けたドアを押して廊下に出ると、珍しく崇夫が振り返った。