funny title-5
その感覚は、まるで引いてゆく磯波のように、駆け足でも追い付かないくらい敏速だった。
「はぁ、はぁっ、う、ぐ」
目の前の右手のない少年は、正義を殺したあと、気持ち悪そうに口元を手で押さえていた。
少し大きめに、左手を振り上げ、少し早めに、振り下ろす。
かつて正義そのものだったものは胸にぽっかり、大きな穴を開けた片腕の少年がナイフで刺した穴が消えてしまうくらい大きな穴だった。少年は思わず目を閉じた。
「さあ」
と殺人鬼が、笑って片腕の少年に話しかける。
「これで君がナイフで刺したという証拠はどこにも無くなった。君の罪は消えたんだ」
「え?あ、ありがとう………なのか」
少年は訳が分からないと思いながらも、とりあえず礼を言った。
「なに、気にすることじゃないよ。どうせ行くんなら、天国にいきたいでしょ?罪人は地獄に落ちるっていうし。そのなくした右腕もあれば、きっと君の人生の罪はきっと消えてるよ」
「え?なに言って…」
「殺人鬼って言うのはね、神様とも違って優しくないし、閻魔様とも違って厳しくもないし、善人にも悪人にも差別せず、是も非もなく殺すモノのことを言うんだよ」
と、殺人鬼は懇切丁寧に説明し。
「え?…!あ!うわああああ!」
少年は、今更ながら、逃げ出した。
「目の前にあるものは、たとえ神でも殺すのさ。生きていれば、ね」
殺人鬼の細腕が唸る。
赤いものが爆ぜた。
了