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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 3-5

 追撃が来る前に、ハヅルはエイの手綱をひいた。
 馬を動かし、木々の奥に誘導する。

「無茶をするな、私を庇わなくていい。私たちは人より丈夫にできているんだ」

「そ、そういうわけにも……」

「っ、来る!」

 他の魔族も彼女らに気付き、ぞろぞろとこちらに向かって来る。
 中には脚の早いものもいる。一足先に、多足獣型の魔族が四方から彼らに殺到しようとしていた。

「エイ、少し注意をひいておいて」

「注意って、あれと闘うの?」

 エイは情けない声をあげた。

「やつらの力はあの程度だ。広範囲までは届かない」

 ハヅルは目の前の怪物を見据えた。

「視認してから力の起動までに間隔が開くはずだ。あなたなら対応できる。立ち止まらずに暴れていてくれ」

 ハヅルはそれだけ言うと、エイの返事を待たずに身を翻して変化した。

 瞬く間に馬上から彼女の姿はかき消え、同時に、ちょうど真上の木の枝に白い猛禽が出現する。
 ハヅルは軽く羽ばたいて変化の正常な完了を確認してから、枝を蹴って飛んだ。
 彼らに襲いかからんとしていた魔族が、夜空を背に羽ばたく彼女の姿に気をとられたように一瞬だけ立ち止まる。

 彼女はエイの立ち位置を中心に、強く振動を加えた空気を拡散させた。十体近い魔族が振動波に弾き飛ばされる。

 その間隙にエイはひとつ息を吸い込んで、剣を抜き放った。

 白い光芒を描いて剣が閃く。

 鳥態となったハヅルは、広い視野の中心にエイをとらえながら上昇した。
 見失う気づかいはなかった。夜闇の中でも、彼の剣の複雑な軌跡と、灰色の髪とが白く浮かび上がっている。
 ハヅルはあきれすら覚えた。先刻まで魔族を恐れて震えていたのがまったくの嘘のような闘いぶりだったのだ。

 彼は八方から襲いかかる触手を軽々と斬り払い、馬をたくみに操って目玉の巨人のすぐそばに飛び込むと、どこが弱点なのか知っているとしか思えない的確さでその脳天をかち割った。噴き出した有害な体液を、これもまた易々と後退して避ける。
 魔族は人間の剣の一撃で倒せるほど脆くはない。
 だが、ひるませることは十分にできていた。巨人は低いうなりをあげてのたうちまわった。

 後退したところに、爪と牙を持つ多足の馬のような魔族が、大きく口を開けて背後から襲いかかったが、彼は見えているかのようにガチリと剣で受け止めた。
 長くは組み合わなかった。彼は剣を押し返しながら自ら間合いをつめると、左手を一瞬手綱から離して、ベルトに下げた短剣をのど元に突き立てた。相手がたまらず口を開けたところを剣で薙ぎ払う。

 濁った馬のいななきのような悲鳴があがった。牙の並ぶ口の中を深く斬り裂かれ、赤い瞳が憎悪に染まる。

 エイは止まらなかった。前脚を上げて立ち上がった魔族に突進し、すれ違いざまに剣を両手持ちにかえて、馬の駆ける勢いごと力いっぱい首元へ叩きつける。
 頭を叩き落とす狙いは予想以上に硬い骨に阻まれたが、首の半ばまで刃をめりこませ、魔族はそのままどっと倒れ伏した。



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