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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 3-6


 乗馬の足元にまとわりつこうとする、猿にも似た小型の魔族を蹴散らしながら、彼はかち割られた頭を抱えて暴れている目玉の巨人へ迫った。

 巨人の無数の眼球が、彼の姿をとらえて一斉にぎょろりとうごめく。続けて彼を殴り倒そうと振り回された腕を、エイは冷静に頭を伏せて避けながら、真下から突きあげた。
 剣先が、先端に手の無い十節の腕の、第二関節部をあやまたず刺し貫く。
 彼は力を込めて貫いた剣を引き抜くと、ひるんだ巨人の懐に飛び込んだ。人間ならみぞおちにあたる部分の眼球に、刃を深々と突き立てる。
 口らしきものが見当たらないのでどこから発しているかは知れなかったが、確かに低い断末魔の咆吼が巨人から放たれた。

 次の相手を求めるように、エイは首をめぐらせた。

 そのときだった。
 不意に、入り乱れていた魔族の軍が一斉にある一方向に頭を向けた。

「……?」

 周囲の空気が一変していた。
 濃い密度の静止空間が生まれる……完全に闘いに没頭していたエイでさえ、不意に訪れた息もつまるような無風状態に違和感を覚えた。音すら伝わらないような錯覚に陥る。


 もう少し、とハヅルは集中を凝らした。
 視認できる一帯の空気を制御下に置く。

 魔族の一体一体を捕えて押しつぶすようなこともできないわけではなかったが、効率が悪いのだ。
 魔族の中には不定形の肉塊がその本体で、圧縮や変形では損傷を与えられないものも多い。
 必要なのは、粉々に吹き飛ばし、焼き尽くす力だ。

 一網打尽にするには、それなりの準備が必要である。
 エイに魔族の注意をひかせたのはそのためだった。魔族の中には、上空の彼女を攻撃する程度の力を持つものもいる。
 それを防ぐのは何でもないことだが、術の準備に集中できないのは困る。
 エイは十分に役目を果たしてくれた。
 魔族を含む一帯の空気はすでにハヅルの影響下にあり、もう彼女以外に『力』を行使することはできない。
 爆心を定め、空気の流れを定め、空気を強く圧縮していく。爆発的な急膨張を演出するためだ。
 それから炎の用意をする。空気は燃えにくいものだが、熱の操作はハヅルの得意とするところだ。
 音よりも早く空気を一気に膨張させ、その衝撃波に火炎を伝播させようというのだ。
 術の完成は間近だった。集中するあまり、羽根先が震えた。空間に不自然な状態を強制するために使われる力は、並大抵のものではないのだ。

 エイと二人の馬を、光を屈折する空気の壁が覆う。
 不意のことだったが、エイはあまり動じなかった。ハヅルの結界だとわかったからだ。この後起こる事象から彼を守る目的の。
 ハヅルは一度だけ、エイを守る結界をざわめかせた。
 合図のつもりだった。エイは気付いたようで、馬の首に身を伏せた。
 エイが伏せたのを確認してから、ハヅルは術を発動させた。
 ピィィ、と澄んだ鳴き声が、糸引くように長く響き渡る。


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