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翼の記憶
【ファンタジー 恋愛小説】

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それぞれの出発点-1

葵は目を閉じ、右手を動かした。
すると、握られていたその杖から光が波紋のように広がり・・・






彼らの傷、痩せ細り、汚れた体は浄化され・・・みるみる健康的な体格へと変化し、身分が低いものの象徴かのような素足にも美しい靴が身に付けられていった。






祈るように葵に手を合わせる者もいれば、驚いて逃げようとする者もいる。葵は微笑みを向けようにも・・・きっとまだまだ同じように苦しめられている者たちがいると思うと笑顔にはなれなかった。






「葵さ・・・ま・・・
ありがとう・・・ございます・・・・」






その声に振り向くと、水色の髪の彼が葵の手を握りしめて涙を流していた。






「・・・申し訳ありません・・・
皆の声に耳を傾けていたつもりだったのに・・・」






葵のその言葉に彼らは首を振った。






「先祖が残したものを子孫が引き継ぐのは当然だと思っております・・・良いものも、悪いものも・・・」






それまで口を閉じていた物静かそうな男が口を開いた。





「そう、だから俺達は・・・助けを求めるのは筋違いだと思っていたんだ・・・」






切ない笑顔を向ける彼らに葵は胸が苦しくなった。人として扱ってもらえず、自由のない人生を送ることがどんなに辛いことか・・・。






「我慢・・・しないでください・・・貴方がたを幸せに導くのが私の役目なのですから・・・」






「引き継いだ悪いものを断ち切ること・・・私も力の限りお手伝いします。皆さん、これからはご自分の人生を生きてください・・・何よりも、貴方がたのために・・・」






その場にいた誰もが葵の優しい言葉に心動かされ、涙を流した。






葵はいくつかの鉱物を彼らに持たせ、新たな人生の門出を祝福し、「いつでも私を頼って欲しい」と、笑顔で送り出した。






最後に残った水色の髪の青年は葵をじっと見つめている。






「水蓮・・・」






「すいれん?」






「はい・・・葵様、
わたしは水蓮と言います。このご恩は一生忘れません・・・必ずあなた様へ恩返しに参ります・・・っ・・・」






水蓮は片膝をつき、葵の手の甲へ優しく口付けた。驚きに葵が手を引くと・・・添えられた手に、わずかに力が加わった。






「貴方が皆を守るなら・・・私は貴方を守りたい」







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